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【アスリート】競技力向上 実践編⑤ セット数と頻度

前回(【アスリート】競技力向上 実践編④ 重量と回数)のまとめ

・基本5種をはじめとした一般的エクササイズにおける重量と回数は「90%1RM前後の重量で3〜5回」もしくは「75%1RM前後の重量で8〜12回」。
・クリーンやスナッチなど爆発的エクササイズにおける重量と回数は「85%1RM前後の重量で3〜5回」。

今回の記事は「セット数」と「頻度」について書き綴っていきますが、最初に結論から申しますと、エクササイズの種類を問わず、

・セット数:3〜5セット
・頻度:週2〜3回

という指標を設けています。

では、なぜこのような指標を設けているのかを詳しく説明していきます。

セット数について

アスリートに限らず、ある程度トレーニングを継続されている方は、経験・感覚的にもう既にご存知だと思うのですが「トレーニングの効果は、1セットよりも複数セットでより大きくなる」というデータがいくつも存在します。

詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、ここではトレーニング未経験者を対象に、1セットのトレーニングを行うグループと、3セットのトレーニングを行うグループにおける筋力の変化率を調べています。

その結果、

スクワット・レッグエクステンション・レッグカールの1RM
1セット:14%増加
3セット:21%増加

というデータが得られました。

また、詳しくは(こちらの英語文献)も見ていただきたいのですが、ここではトレーニング経験者を対象に、1セットのトレーニングを行うグループと、3セットのトレーニングを行うグループにおける筋力の変化率を調べています。

その結果は以下の通りです。

レッグプレスの1RM
1セット:26%増加
3セット:56%増加
ベンチプレスの1RM
1セット:20%増加
3セット:33%増加

なお、上では筋力の変化に関する研究を紹介しましたが、筋断面積の増加においても「複数セットの方が、1セットよりも効果的」というデータが存在します。

もっとも「1セットと複数セットにおいて、筋力・筋断面積の増加率に有意差は見られなかった」という報告も多々あるのですが「1セットの方が、複数セットよりも筋力・筋断面積の増加に効果的だった」という報告は見当たらず、効果量は複数セットで大きな値を示しているので、筋力・筋断面積の増加においては「複数セットで取り組むに越したことはない」つまり「トレーニングの効果を十分に得たいのであれば、1セットではなく複数セット行おう」ということが言えるでしょう。

詳細を知りたい方は、以下の文献をご一読ください。

筋力:Single Versus Multiple Sets of Resistance Exercise: A Meta-Regression
筋断面積:Single vs. multiple sets of resistance exercise for muscle hypertrophy: a meta-analysis

セット数を考えるときは頻度も考慮するべき

先ほど「トレーニングの効果は、1セットよりも複数セットでより大きくなる」というデータをいくつか紹介しました。しかし、言ってしまうと「これは当たり前の結果だな」という印象です。

セット数が多いということは、それに伴ってトレーニングのボリュームも増します。つまり、より大きな刺激が加わるわけです。

例えば一番最初の研究では、週に3回・6週間・7RMの負荷・7レップという設定をしているのですが、1セットのトレーニングを行うグループは、1セット × 3回 × 6週間となり計18セット。3セットのトレーニングを行うグループは、3セット × 3回 × 6週間となり54セット。わかりやすく7RMの負荷を100kgだとすると、

1セット:18セット × 100kg × 7レップ = 12600kg
3セット:54セット × 100kg × 7レップ = 37800kg

となり、25200kgもの差が生じているのです。

そのため、確かに「トレーニングの効果は、1セットよりも複数セットでより大きくなる」というデータは存在していますが「トレーニングの効果は、セット数ではなくボリュームが影響しているんじゃないの?」「セット数が少なかったとしても、その分頻度を増やしボリュームを統一させれば、トレーニングの効果も同等になるんじゃないの?」などの疑問が生まれます。

詳しくは(こちらの英語文献※1)を見ていただきたいのですが、ここではトレーニング未経験者を対象に、2セット・週に3回のトレーニングを行うグループと、6セット・週に1回のトレーニングを行うグループにおける筋力・筋断面積の変化率を調べています。つまり、ボリュームを統一させ、低セット中頻度グループと高セット低頻度グループに分けてトレーニングを実施したわけです。

なお、低・中・高の分類は以下のように定義しています。

低:1〜2
中:3〜4
高:5〜

その結果「レッグエクステンションの1RM(筋力)・大腿周囲(筋断面積)の増加において、グループ間で有意差は確認されなかった」というデータが得られました。

また、詳しくは(こちらの英語文献)も見ていただきたいのですが、ここではトレーニング経験者を対象に、2セット・週に6回のトレーニングを行うグループと、4セット・週に3回のトレーニングを行うグループにおける筋力・筋断面積の変化率を調べています。つまり、ボリュームを統一させ、低セット高頻度グループと中セット中頻度グループに分けてトレーニングを実施したわけです。

その結果「スクワット・ベンチプレス・デッドリフトの1RM(筋力)・除脂肪体重(筋断面積)の増加において、グループ間で有意差は確認されなかった」というデータがここでも得られました。

よって「セット数を考えるときは頻度も考慮するべき」ということが言えるでしょう。まとめると「セット数と頻度は切っても切れない関係にあり、セット数と頻度で釣り合いが取れていれば(=ボリュームが同じであれば)、トレーニング効果は同等になる」そして「ボリュームは多い方が、トレーニング効果は大きくなる」ということです。

筋力・筋断面積等の増加における理想のセット数と頻度は?

「セット数を考えるときは頻度も考慮するべき」と先述しましたが、筋力・筋断面積等の増加における「理想・・」のセット数と頻度はどれくらいなのかといいますと、個人的には「セット数は少なめに、頻度は多めに」だと考えています。

具体的には「2セット・週に5回」といった具合です。

では、なぜ「セット数は少なめに、頻度は多めに」を理想と考えているのかというと、これには大きく3つの理由があります。

筋力

先ほど「セット数と頻度で釣り合いが取れていれば、トレーニング効果は同等になる」と述べましたが、(※1)では等尺性随意最大筋力の増加においては「低セット中頻度グループの方が、高セット低頻度グループよりも効果的だった」というデータが得られています。

また、詳しくは(こちらの英語記事)を見ていただきたいのですが、 スクワット・ベンチプレスの1RMの増加においては「高頻度グループの方が、中頻度グループよりも効果的だった(セット数不明)」という報告もあります。

RPE(自覚的運動強度)

RPE(自覚的運動強度)とは、運動時の主観的負担度を数字で表したもの、簡潔に言うと「どれほど辛いかを点数化したもの」なのですが、RPEの程度においては「低セット中頻度グループの方が、高セット低頻度グループよりも小さかった」というデータが得られています(※1)。

つまり「セット数は少なめに、頻度は多めにの方が疲れなくて楽だ」ということです。

フォーム習得

このブログでも以前書き綴りましたが「休憩を挟みながら高頻度で取り組むことによって、適切なフォームを効率的に習得できる」というデータが存在します(詳しくは筋トレで適切なフォームを効率的に習得するコツを参照)。

適切なフォームを効率的に習得できるということは、特にトレーニング未経験者においては早い段階でそれなりの負荷を扱うことができる=より大きな刺激を加えることができる、に繋がります。

このような3つの理由から「セット数は少なめに、頻度は多めに」を理想と考えているわけです。

ちなみに、いくらボリュームが多くなるとは言えど「セット数は多めに、頻度も多めに」具体的には「6セット・週に5回(週あたり30セット)」などというプログラムは、オーバートレーニングという点から「やりすぎ」です。

詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、10セット・週に3回のトレーニングを行うグループと、5セット・週に3回のトレーニングを行うグループでは、筋力・筋断面積等の増加において「5セット・週に3回の方が効果的」という結果が得られております。

しかしながら

しかし「セット数は少なめに、頻度は多めに」が、筋力・筋断面積等の増加における理想とはいえど「2セット・週に5回」などというプログラムは、正直オススメできません。

言い換えるのであれば、そこまで多くの日数をトレーニングに割くことをオススメしていません。

アスリートがトレーニングを行う理由は「競技力を決定する因子の1つに身体能力があり、その身体能力はトレーニングで効果的に向上する」からです。

競技力を決定する因子は、なにも身体能力だけでありません。身体能力以外の競技力決定因子も、当然に向上させる必要があります(競技技術・メンタル・戦術…etc)。

私は、長らく総合格闘技の選手を教えていたのですが、総合格闘技には打撃・投げ・極めなど様々な倒し方が存在するため、彼らはそれらの倒し方、つまり競技技術を別箇で磨いていました。

月曜日:ボクシングジムでパンチの練習
火曜日:レスリングジムでタックルの練習
水曜日:柔術ジムで寝技の練習

以下続く

といった具合です。

そのため、いくら「セット数は少なめに、頻度は多めに」が、筋力・筋断面積等の増加における理想だったとしても、身体能力以外の競技力決定因子を、そして「時間は有限である(=スケジュールには限界がある)」ということ考慮するならば、週に5回ものトレーニングはいささか問題がある、と考えています。

トレーニングに時間を使いすぎ、と考えています。

もっとも、中には「技術・メンタル・戦術は上等。ただ、身体能力が深刻な問題だ」という方もいらっしゃるでしょう。

そのような方においては、競技技術練習などを削って「2セット・週に5回」プログラムでも良さそうな気がします。トレーニングに多くの時間を使っても良さそうな気がします。しかし、それでもそこまでオススメできるものではありません。

「身体能力が深刻な問題だ」という方は、トレーニングの経験が浅いか、全くないか、トレーニングの経験は相応にあれど適切なプログラムを組んでこなかったか、のいずれかです。

これは私個人の経験論になりますが、まず外れたことはありません(記憶が正しければ)。

つまり、トレーニングの経験が相応にある、もしくは適切なプログラムを組んできたのであれば「身体能力が深刻な問題だ」とはならないのです(経験論です)。

よって、そのような方に対してトレーニング指導を実施すると、ハイペースで身体能力が向上します。

もちろん、身体能力が向上することは、ハイペース・スローペースを問わず決して悪いことではありません。繰り返しになりますが、身体能力は競技力を決定する因子の1つであるため、むしろ良いことです。

しかし、詳しくは(こちらの記事)で書き綴りましたが、身体能力が向上したとしても、それがすぐさま競技力に結びつくとは限りません。

「身体能力の向上→競技力の向上」ではなく「身体能力の向上→獲得した身体能力をうまく操る技術を習得→競技力の向上」という段階があるのです。

そのため「競技技術練習などを削って、2セット・週に5回プログラム」を実施すると、確かに身体能力はハイペースで向上するでしょうが、競技技術練習を削ってしまったゆえ「獲得した身体能力をうまく操る技術を習得」が結果おろそかになり、競技力の向上にイマイチ結びつかない可能性もあるのです。

このような理由から「しかし、それでもそこまでオススメできるものではありません」と記載したわけです。

結論〜セット数と頻度〜

では、結局のところセット数と頻度はどうすれば良いのかといいますと、一番上に記載したよう「3〜5セット・週2〜3回」(週あたり10セットほど)を指標としています。

このプログラムであれば、しっかりとしたトレーニング効果が期待できるというデータが存在しますし、身体能力以外の競技力決定因子も向上させる時間を相応に確保することができる、という印象があるためです。

ただ、1つ注意していただきたいことがあるのですが、これはあくまでも指標に過ぎず「絶対」ではありません。

例えば「明日から10日間の旅行に出かける。旅行先の関係上、トレーニングをしばらく行うことができない。そのため、今日はセット数を多くしよう」や「最近、帰宅時間が遅くて睡眠時間をあまり確保できてない。少し疲労が溜まってきた。このままだと、競技はもちろん私生活にも悪影響が出てしまう。そのため、とりあえず今月は頻度はそのままにセット数を少なくして帰宅時間を早くし、睡眠時間を少しでも確保しよう」というのは全然アリです。

しかし「2週間トレーニングを中断したら、筋力・筋断面積が減少した」というデータがありますので(詳しくはこちらの英語文献を参照)、最低でも週あたり3セット(具体的には1セット・週3回や3セット・週1回)は行うようにしましょう。

また、先述したように「やりすぎはかえって逆効果」というデータもありますので、セット数 × 頻度は「15」以内に収めるようにしましょう。

なお、セット数と頻度における指標は、以下の文献を参考にしております。興味のある方はご覧ください。

The Effect of Weekly Set Volume on Strength Gain: A Meta-Analysis.
Dose-response relationship between weekly resistance training volume and increases in muscle mass: A systematic review and meta-analysis.

次回に続く。

まとめ

・セット数は、エクササイズの種類を問わず3〜5セット。
・頻度も、エクササイズの種類を問わず週2〜3回。

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