日本は、2007年より超高齢社会に突入しました。
(内閣府)の調査によると、2017年の時点で、65歳以上の高齢者の人口は3,515万人、総人口に占める割合は27.7%、つまり約4人に1人が高齢者という状況です。そして、この超高齢社会は、まず間違いなく加速するとされています。
超高齢社会では、医療・年金など、様々なジャンルにおいて問題が発生するとの予見がありますが、その中でもトップレベルに不安視されているのが、介護問題です。
高齢者の人口、及び総人口に占める割合が急激に増加することで、また、重労働低賃金と囁かれる介護職の待遇の関係で、近い将来、数10万人規模の介護職員が不足すると言われています。
では、この介護問題を、完全には無理だとしても、それなりに解決するためにはどうすれば良いのでしょうか?いくつか策はあると思いますが、その中でも声を大にして紹介したいのが「トレーニング」つまり「筋トレ」です。
高齢者がトレーニングを行うことで、介護の予防ができるのです。質の高い生活を、より長い期間送ることができるのです。
しかしながら「高齢者にトレーニングは重要だ」という大きな事実は知っていたとしても、どんな種目を行うべきなのか?何回何セット行うべきなのか?…といったトレーニング内容を熟知している方は、非常に少ない印象があります。
そのため、今回はタイトルにあるよう、高齢者向けトレーニングのメニューを書き綴っていきます。
なお、この記事は正直なところ、高齢者の方に向けて作成しているわけではありません(もちろん、高齢者の方に読んでもらえるのは嬉しいです)。
どちらかというと、高齢のご両親やご祖父母を持つ、青年〜中年層のトレーニーに向けて作成しています。軽いフットワークを生かし、情報を広めていただければ幸いです。
結論
強度:40〜50%1RM。
回数:10〜15レップ。
セット数:慣れてきたら2〜3セット。
セット間休憩時間:1〜2分。
頻度:週に1〜2回。
動作速度:比較的ゆっくり。
そもそも、なぜ高齢者にトレーニングは重要なのか?
先述した通り、高齢者にトレーニングが重要なのは、介護の予防ができるからなのですが、ここではもう少し深く掘り下げていきます。
まず、詳しくは政府統計より(平成30年 国民生活基礎調査の結果から)を見ていただきたいのですが、ここには介護が必要になった主な原因が記載されています。グラフにまとめたものが以下です。
運動器の衰え
ここで注目していただきたいのは「高齢による衰弱」「骨折・転倒」「関節疾患」の3つの原因です。
トレーニングにお詳しい方は、すでにピンと来ているかもしれませんが、これら3つの原因は、身体運動に関わる筋肉(≒筋力)や骨・関節・神経など、いわゆる「運動器」と関連しています。
つまり、これら3つの原因は「運動器の衰えに由来する」と括ることができるのです。
例えばですが「転倒経験のある高齢者は、転倒経験のない高齢者に比べ、下半身の筋力が半分以下だった」というデータが存在します(詳しくはこちらの英語文献を参照)。
そのため、トレーニングを行い運動器を鍛えれば、また、筋力を増加させれば、全体の約30%を占めるこれら3つの原因を取り除くことが期待できるのです。つまり「介護が必要ではない健全な高齢者」が増えるのです。
そして、高齢者であっても「トレーニングを行うことで筋力を増加させることができる」という報告があります(詳しくはこちらの英語文献を参照)。
脳血管・心疾患
トレーニングを行い運動器を鍛え、また、筋力を増加させることで「高齢による衰弱」「骨折・転倒」「関節疾患」の3つの原因を取り除くことが期待できるわけですが、実はトレーニングで期待できる効果はそれだけではありません。
詳しくは(こちらの英語文献)や(こちらの英語文献)をご覧いただきたいのですが、血管や心臓に関わる疾患とトレーニングの関係について追跡調査をした結果、適度な量のトレーニングを行っている方は、トレーニングを行っていない方に比べ、それら疾患の発症や死亡リスクが有意に減少する、ということがわかりました。
なお、上のグラフでは「脳血管疾患」と「心疾患」が、血管や心臓に関わる疾患に該当します。
一旦まとめ
・トレーニングは、血管や心臓に関わる疾患「脳血管疾患」と「心疾患」の発症や死亡リスクを有意に減少させる。
・結果「介護が必要ではない健全な高齢者」が増える。
このような理由から、高齢者にトレーニングは重要なのです。
メニュー
高齢者に対するトレーニングの重要性を確認したところで、具体的なメニューを記載していきますが、ここからは
(高齢者における下肢レジスタンストレーニング)
(高齢者におけるサルコペニアの症状の予防と筋フィットネスのためのレジスタンス運動)
(高齢者におけるストレングストレーニング研究とガイドラインについて)
上記文献を参考にしています。
ご興味のある方はご覧ください。
種目
まずは種目から触れていきますが、理想はダンベルやバーベルを扱ったフリーウエイトです。具体的には、スクワットやルーマニアンデッドリフト・ベンチプレス・ショルダープレスなどの多関節エクササイズが挙げられます。
大腿四頭筋や大臀筋・ハムストリングス・大胸筋・三角筋…といった比較的大きな筋群を優先的に鍛えることがポイントです。
しかし、特にトレーニング経験のない方は、フリーウエイトに対して強い恐怖・不安を感じることもあるでしょう。そのような場合は、レッグプレスやチェストプレスなどのマシントレーニングで全く構いません。
もっとも、フリーウエイトやトレーニングマシンを置いているフィットネスクラブ/トレーニング施設に通えない時は、椅子から立ち→座り→立ち→座りを繰り返す「チェアスクワット」や、壁に手をつけた腕立て伏せ「ウォールプッシュアップ」など、自宅でできる自重種目でOKです。
なお、種目数は8種目以上が推奨されています。
具体例
1:スクワット
2:ルーマニアンデッドリフト
3:ヒップスラスト
4:チェストプレス
5:ラットプルダウン
6:ダンベルショルダープレス
7:ワンハンドロー
8:レッグレイズ
強度
次は強度ですが、トレーニングに慣れ、適切なフォームを習得できるまで(1ヶ月〜2ヶ月前後)は、30%1RM以下の負荷をオススメしています。主観的な感覚としては「これなら問題ない。まだまだ大丈夫。うん軽い」です。
そして、トレーニングに慣れ、適切なフォームを習得できた後は、30→35→40%1RMと負荷を増やしていきましょう。
ちなみに、負荷は40〜85%1RMが推奨されていますが、安全性を考えるのであれば、40〜50%1RM(30回前後はできるであろう負荷)がよろしいのではないかと思います。
もちろん、さらなる高みを目指したい方は、70%1RM以上でも良いでしょう。
回数
10〜15レップが推奨されています。個人的には、キリの良い10レップを好んで指導しています。
セット数
トレーニング経験のない方に関しては、1セットから始めることが推奨されています。トレーニングに慣れてきたら、2〜3セットとセット数を増加させても良い、とのことです。
セット間休憩時間
長すぎるとだらけてしまいますし、短かすぎると疲労が相当に溜まるため、1〜2分が推奨されています。
頻度
多すぎる頻度は「脳血管疾患」や「心疾患」に悪影響を及ぼす可能性が示唆されているため、週に1〜2回がよろしいかと思います。疲労の関係から「月/木」や「火/金」など、間に2〜3日の休息日を挟むのがオススメです。
動作速度
安全性を確保するため、比較的ゆっくりがよろしいかと思います。具体的には、片道2秒以上です。
トレーニングに慣れ、適切なフォームを習得できた後は、バリエーションとして素早く挙上したり、さらにスローにするのも楽しいかもしれません。
まとめ
強度:40〜50%1RM。
回数:10〜15レップ。
セット数:慣れてきたら2〜3セット。
セット間休憩時間:1〜2分。
頻度:週に1〜2回。
動作速度:比較的ゆっくり。
今回は、高齢者向けトレーニングのメニューを書き綴りましたが、ここで記載した内容は、あくまでも「目安」にすぎません。また「医師から運動を禁止されていない」を前提条件としています。
いくらトレーニングが介護の予防に効果的だとしても、無茶をして身体や精神に悪影響を及ぼしては、元も子もありません。
しかし、トレーニングには目を見張る素晴らしい効果がありますので、タイミングや状況を見て、是非実践していただければと思います。