今回の記事は、体幹トレーニングシリーズの第2回目となっています。
をご覧になられてない方は、まずこちらをご覧ください。
体幹の安定性を確保する2つの仕組み
体幹の安定性を確保することは、スポーツをされている方にとって非常に重要となりますが、その方法は、
2.グローバルマッスルの収縮による外からの安定性確保。
の2つに分けることが可能です。
今回の記事は、1つ目の「ローカルマッスルの収縮による内からの安定性確保」について触れていきます。
腹腔・腹圧とは?
私たちのお腹には、胃や肝臓といった臓器が存在していますが、これら臓器は腹膜と呼ばれる膜組織に覆われています。「スーパーのレジ袋に何個もの水風船をぎっしりと詰め込んだ状態」とイメージするとわかりやすいかもしれません。
そして、腹膜に囲まれた空間は「腹腔」(ふっこう・ふっくう)と呼ばれており、腹腔の内から外に向けて生じている圧力が腹腔内圧、いわゆる「腹圧」です。
ローカルマッスルは腹圧に影響し腹圧は体幹の安定性に影響する
詳しくは(こちらの英語文献)や(こちらの日本語文献)を見ていただきたいのですが、腹圧は体幹の安定性に関与することがわかっており、腹圧が高まるほど体幹の安定性も高まります。
腹圧に関与する筋肉は、腹横筋・横隔膜・骨盤底筋群・多裂筋などが挙げられるのですが、これらはローカルマッスルと呼ばれています(詳しくはこちらの英語文献を参照)。
ローカルマッスルは、身体の奥深くにあるため「深層筋」や「インナーマッスル」との名称でも呼ばれており、おそらくこちらの単語の方がよく耳にするのではないでしょうか?
ローカルマッスルが体幹の安定性を確保するまでの流れですが、
2.腹腔に多方向からの圧力がかかることで腹圧が高まる。
3.腹圧が高まることで背骨を押し支えるような作用が働く。
4.体幹の安定性が高まる。
となっています。
これが、ローカルマッスルの収縮による内からの安定性確保、の仕組みです。
腹横筋を収縮させるドローインは腹圧を高めない
お腹を凹ましておへそを背中に押し付ける、つまり腹横筋を収縮させる種目は「ドローイン」と呼ばれています。腹横筋の強化に効果的とされています。
「ドローインを行うことで、腹横筋が収縮し→腹圧が高まり→体幹の安定性が高まります。ですので、トレーニング中はドローインを行いましょう」と指導されているパーソナルトレーナーの方がいらっしゃいますが、腹横筋を収縮させたとしても腹圧は高まりません。
ゆえに、体幹の安定性も高まりません。
先述した通り、腹圧を高めるためには腹腔に多方向からの圧力をかける必要があり、腹横筋を収縮させただけでは腹圧は高まらないのです。
腹圧に関与する筋肉の一つに横隔膜がありますが、この横隔膜は呼吸に伴って上下運動するので、腹圧を高めるためには大きく息を吸い呼吸を止める、つまり「いきむ」必要が出てくると推測できます。
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、この実験では①自然呼吸②息を吸い呼吸を止める③息を吐き呼吸を止めるなど、いくつかの呼吸パターンにおける腹圧を測定しているのですが、その結果「②息を吸い呼吸を止める」の状態で、腹圧は高くなることがわかりました。
そのほか、吸気量(息を吸う量)と腹圧の関係を調べた実験では、吸気量が増加するほど腹圧も高まるとのデータがあります(こちらの日本語文献)。
腹圧の研究者に「蒲田 和芳」さんという方が居られるのですが、彼は自身のfacebookにて、
多くの人は腹壁の筋の緊張が高い状態を「腹圧上昇」と誤って理解しています。実際のところ、腹筋運動を含め、腹筋の緊張上昇と腹腔内圧とは相関しません。腹横筋のトレーニングで使われるdraw inでも呼吸をしている場合は腹圧上昇は生じません。
出典:Kazuyoshi Gamuta 2012年9月15日 Facebook
と投稿されています。
蒲田先生が書かれた論文の要旨ですが見つけましたので、詳しく知りたい方は(こちらの日本語文献)を参照にしてください。
ドローインを行わせる必要があるか?いやないのではないか
このような理由から、私はスポーツ競技者にドローインを指導することはありません。
また、もし仮にドローインをトレーニング中に行うことで、もしくは単体エクササイズとして取り入れることで腹横筋を強化できたとしても、腹横筋は非常に薄いため、腹圧をさらに高める=体幹を安定させることに繋がるとは考えにくいからです。それよりも、呼吸相が重要です。
もっとも、ドローインを全否定しているわけではありません。
とある理学療法士の話なのですが「腰部に何らかの傷害を負っている方は腹横筋の活動に遅延が確認されており、フィードフォワード機構が正常に働いていない場合がある。そして、その改善策としてドローインを取り入れるのは効果的」と聞いたことがあります。
しかし、競技力向上を目的とされている方がドローインを取り入れるのは、このような理由から時間の無駄と感じずにはいられません。
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