「体幹トレーニング」と呼ばれる、体幹に焦点を当てたトレーニング法が、数年前から注目されています。
ジャンプ力や疾走能力、そのほか方向転換能力などのパフォーマンスが飛躍的に向上するとされており、アスリートをはじめ、スポーツを趣味で行う一般の方も、広く取り入れている印象です。
しかし「パフォーマンスが飛躍的に向上する」これは本当でしょうか?
最初に結論から申しますが、体幹トレーニングを行ったとしても、先述したパフォーマンスの飛躍的な向上は正直期待できません。
今回の記事は、アスリートに向けて、この体幹トレーニングについて詳しく書き綴っていきますが
・体幹トレーニングを行う必要はあるのか?
などに触れていくため少し長くなりますので、計4回に分けシリーズ化していくつもりです。
体幹とは?
体幹の定義は、人それぞれで違いがあるかもしれませんが、一般的には「腕や脚を除いた胴体部分」と認識されている印象があります。
「体幹」と検索をかけると、様々な筋トレ系WEBサイトに引っかかりますが、単語は異なれど、どれも同じようなニュアンスで説明されています。
一方で、体幹を「お腹周り(身体の中心部分)」と記述している筋トレ系WEBサイトもちらほら見られるため、少なくともここ日本における体幹とは、
・狭義:お腹周り(身体の中心部分)
との認識で大きな問題はないでしょう。
体幹が重要視されている理由
例えばですが、
・ヘッド・グリップは鉄だが、シャフトが割り箸で構成されている割り箸レンチ
があった場合、どちらの方がボルトをきつく締め付けることができるでしょうか?
試すまでもなく、鉄レンチの方が、ボルトをきつく締め付けることができます。つまり、割り箸レンチの方が、ボルトをきつく締め付けることができません。
なぜなら、力の伝達経路であるシャフトが割り箸だともろく、発揮された強い力に耐えきることができないためです。
このレンチの例えを私たちの身体に、そしてスクワットに当てはめると、力の伝達経路であるシャフトは体幹に相当します。
力を伝える部分:バーベルを支える肩や腕=ヘッド(緑丸)
力の伝達経路:体幹=シャフト(赤丸)
力を発揮する部分:下肢の筋群=グリップ(黄丸)
いくら強い力を発揮しようとも、シャフトがもろければボルトに力は伝わりません。同じように、いくら下肢の筋力を発揮しようとも、体幹がもろければまともにバーベルを持ち上げることはできません。
体幹が重要視されている理由は「力の伝達経路」という役割を担っているためです。
フィードフォワード機構
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、
・健常な男女15名が被験者。
・股関節の屈曲、外転、伸展動作を行ってもらう。
・腹横筋や外腹斜筋・大臀筋などの筋活動を調べる。
という実験を行った結果「どの筋肉よりも、腹横筋が先立って収縮をする」というデータが得られました。腹横筋は、お腹の深部にある、コルセットのような筋肉のことです。
「どの筋肉よりも、腹横筋が先立って収縮をする」このメカニズムは「フィードフォワード機構」と呼ばれており、この機構が起こることで脊柱の安定性が高まり、私たちはスムーズに身体を動かすことが可能になる、と考察されています。
そのため、脊柱の安定性を確保することは「動作の要・基盤になる」とも言えるでしょう。
私なりの体幹の定義
少なくともここ日本における体幹とは、
・狭義:お腹周り(身体の中心部分)
との認識で大きな問題はないでしょうと先述しましたが、フィードフォワード機構というメカニズムを踏まえ、私は体幹をもう少し緻密に捉えていまして、
・狭義:腰椎
と定義付けをしています。
そのため「体幹トレーニングとは何か?」と質問された場合は、
が答えとなり「体幹トレーニングを行う目的は何か?」と質問された場合は、
が答えとなります。
体幹の安定性は重要だけれども…
体幹の安定性が重要であることには、何1つ異論はありません。力の伝達経路であり、動作の要・基盤になるためです。
しかし、例えばオーバーヘッドスクワットなどでは、肩関節や肘関節の安定性も必要となります。先ほどのレンチの話に戻しますが、肩関節や肘関節もシャフトとして捉えることが可能です。
また、いくら体幹の安定性が高かったとしても、下半身の力がなければ元も子もありません。レンチでもそうですが、力のある大人が回すのと力のない子供が回すのでは、締め付けに雲泥の差が出ます。
このような理由から「体幹の安定性は重要です。しかし、そのほかの関節の安定性や純粋な筋力も当然重要になります」と指導をしています。
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