今回の記事は、トレーニングを行ううえで欠かせない基本的な知識「ATP」と、それに関連するエネルギーシステム(供給経路)について書き綴っていきます。
※初級者向けの記事となっています。
※参考文献(NESTA PFT テキスト)
ATPとは?
概要
まず、ATPとは「Adenosine Triphosphate」を略したもので、日本語では「アデノシン三リン酸(あでのしんさんりんさん)」と訳されます。アデノシンに、リン酸が3つくっついた物質、と思っていただければ問題ありません。
そして、このATPは、身体を動かす(筋肉を収縮させる)エネルギーになります。具体的には、下のイラストのように、リン酸が1個離れる時にエネルギーを放出します。
ATP → ADP(アデノシン二リン酸) + リン酸 + エネルギー
貯蔵量
ATPは筋肉中に蓄えられているのですが、その貯蔵量は決して多くありません。ほんの数秒身体を動かしただけで、ATPは無くなってしまいます(ADPへと分解されます)。
そのため、継続的に運動をするには、ATPを新たに生成する必要があります。
3つの供給経路
継続的に運動するためには、ATPを生成する必要があるわけですが、生成の方法、すなわち供給経路は3つあります。
1つめ ATP-PCr系
ATP-PCr系は、筋肉中にあるクレアチンリン酸(PCr)を使う方法です。ATP-CP系や、クレアチンリン酸系とも呼ばれます。
プロセスはいたってシンプルで、クレアチンリン酸を、クレアチンとリン酸に分解しATPの生成を行うというものです。
そのため、極めて短時間でATPを生成することができます。
イメージとしては「ポポポポポポポン!」とスピーディーにATPを生成します。単位時間あたりのATP生成量は、3つの供給経路の中でトップです。
ゆえに、ATP-PCr系は、単位時間あたり、かなり多くのATPが要求されるような運動、具体的には、100m全力疾走や1〜2レップしかできない高重量トレーニングなどで優位に働きます。
しかし、クレアチンリン酸も、ATP同様貯蔵量は少なく、10秒かからない内に消費されてしまいます。全力疾走をした時、必ず途中から失速していきますが、これはクレアチンリン酸が消費され、ATPの生成量が少なくなったためです。言い換えるのであれば、全力疾走におけるATPの需要に、供給が追いつかなくなっているのです。
ちなみに、サプリメントのクレアチンの補給は、筋肉中のクレアチンリン酸の貯蔵量を増加させます。貯蔵量が増加すると、より激しい運動を、より長い時間継続することができるようになるわけです(詳しくはこちらの日本語文献を参照)。
2つめ 解糖系
解糖系は、筋肉中にあるグリコーゲン(糖質)を使う方法です。筋肉中にあるグリコーゲンは、筋グリコーゲンとも呼ばれます。
筋グリコーゲンは、グリコーゲンホスホリラーゼやヘキソキナーゼ・ピルビン酸キナーゼ…など様々な酵素によって、グルコース→ピルビン酸へと変換され、その過程でATPを生成します。
解糖系は、ATP-PCr系に比べると、やや複雑な反応を経てATPを生成するため、単位時間あたりのATP生成量はどうしても落ちてしまいます。3つの供給経路の中では2番目です。
そのため、解糖系は、100m全力疾走や1〜2レップしかできない高重量トレーニングなどよりもやや強度の低い運動で、具体的には、800m走や10レップ〜中重量トレーニングなど、全力に近い運動で優位に働きます。
「スポーツやトレーニングの前には糖質を摂取しよう!」というセリフを一度は聞いたことがあると思いますが、その理由は、糖質はこのようにエネルギーの主な材料になるためです。
3つめ 酸化系
酸化系は、解糖系で登場した筋グリコーゲン(ピルビン酸)と、体脂肪(脂肪酸)を使う方法です。
筋グリコーゲン→ピルビン酸は先述した通りですので体脂肪に触れていきますが、体脂肪は、ホルモン感受性リパーゼと呼ばれる酵素によって脂肪酸に変換されます。
そうして変換されたピルビン酸と脂肪酸は、筋肉中にあるミトコンドリアという名の細胞組織で、さらにアセチルCoAと呼ばれる物質に変換されます。
そして、このようにしてできたアセチルCoAに対して、様々な酵素で様々な化学反応を起こしATPを生成します。
つまり、ミトコンドリアはATPを生成する工場とも言えるわけです。
酸化系は、かなり複雑な反応を経てATPを生成するため、単位時間あたりのATP生成量は、3つの供給経路の中で一番少なくなっています。
そのため、多くのATPを必要とするような激しい運動においては、酸化系だと供給が間に合いません。しかし一方で、ウォーキングやゆったりとしたサイクリングなど、強度の低い運動では優位に働きます。
まとめ
ATP-PCr系、解糖系、酸化系を解説してきましたが、それら3つの供給経路をまとめたものが以下のグラフになります。
雑な作りで申し訳ありませんが、縦軸はATP生成の割合を、横軸は運動の継続時間を表しています。
見方は非常にシンプルで、例えば、60秒が限界の運動を行う場合、ATPの生成は解糖系がメインで働き、サブとして酸化系が働くことになります。
最後に
今回の記事は、初級者向けに、ATPとそれに関連するエネルギーシステム(供給経路)について書き綴りましたが、ここで記載した内容は、あくまでも基礎的なものとなっています。
各エネルギー供給経路のエネルギー源回復時間、供給速度、代謝物…、本気で書こうと思えば、1つの供給経路あたり2万文字はくだりません(この記事は約2千文字)。
しかし、例え基礎的なものだとしても、知っておくに越したことはありませんので、ぜひ覚えておくようにしましょう。