最近、SNSの普及もあってか、ボディメイクを目的としたトレーニング人口がグングン増えている印象があります。トレーニング指導を生業としている私にとっては、嬉しい限りです。
先日、とあるジムに行った時「トレーニングはダイエットに効果的、それも超効果的!」というセリフを耳にしました。
今回の記事は、トレーニングにおけるダイエット効果について書き綴っていきたいと思いますが、最初に結論から申しますと、トレーニングにダイエット効果はあります。
しかし、トレーニングのダイエット効果は、巷で言われているほど大きくないかもしれません。つまり、超がつくほど効果的ではない、ということです。
個人的な見解が含まれますが、なぜこのような主張をするのか、理由をお話しします。
ダイエットではアンダーカロリーが条件
まず、大前提として、ダイエットを成功させる(体脂肪を落とす)には、エネルギーの収支をマイナスにする必要があります。つまり「消費カロリー > 摂取カロリー」いわゆる「アンダーカロリー」と呼ばれる状態を作る必要があります。
これは「貯金」をイメージするとわかりやすいかもしれません。消費カロリーが摂取カロリーを上回れば、言い換えると、支出が収入を上回れば、体脂肪という名の貯金を崩すことになるのです。
そして、事実アンダーカロリーにすることで、体重・体脂肪の減少が確認された、という報告は多々存在します(例えばこちらの英語文献を参照)。
どれくらいアンダーカロリーにすれば良い?
ダイエットを成功させるには、アンダーカロリーが条件となるわけですが、どれくらいアンダーカロリーにすれば良いのかというと、1日あたり「体重 × 5〜10kcal」が目安になります。
体重80kgの方がいたとすると、400〜800kcalのアンダーカロリーです。仮に、1日につき2700kcalを消費するのであれば、摂取カロリーの目安は1900〜2300kcalになります。そして、このペースでは理論的に、1週間で体重の0.5〜1%の体脂肪を落とすことができます。
もっとも、これ以上アンダーカロリーにすれば、その分早いスピードで体重は落ちていくでしょうが、体脂肪だけではなく筋肉も落ちてしまう可能性があるため、一般的にはオススメされていません(詳しくはこちらの英語文献を参照)。
一方、これ以下のアンダーカロリーにおいては、アンダーカロリーである以上体脂肪は落ちていくものの、そのスピードはかなり緩いものになり日数がかかるため、これもまたあまりオススメされていません。
トレーニングにダイエット効果はあるのか?
トレーニングの消費カロリーについて
アンダーカロリーの確認ができたところで本題に入っていきますが、トレーニングは紛れもなく「運動」の一種です。そのため、トレーニングを行えば当然にカロリーを消費します。よって、ダイエット効果はあります。
では、一般的なトレーニングはどれくらいのカロリーを消費するのかというと、上級者で1時間あたり「体重 × 3.5〜4.5kcal」ほどです。
つまり、体重80kgの方では、320kcal前後(280〜360kcal)になります。トレーニングの消費カロリーについて詳しく知りたい方は(こちらの記事)をご覧ください。
320kcalを大きいと思うか小さいと思うかは人それぞれでしょうが、先に記載した1日あたりのアンダーカロリーの目安「体重 × 5〜10kcal」(体重80kgの方では400〜800kcal)を考慮すると、少なくともトレーニングだけでこの目安をクリアすることは困難なのは事実です。
また、かなりハードにトレーニングをこなし、仮に目安をクリアできたとしても、同じことを毎日続けるのは流石に無理があります。
さらに、この数値はそもそも「上級者」においての話です。初心者の方では、当たり前に消費カロリーが少なくなります。特にトレーニング経験のない方は、基本的に負荷をかけないフォーム練習からスタートするはずなので、さらに少なくなるでしょう。
このような理由から「トレーニングのダイエット効果は、巷で言われているほど大きくないかもしれません」と一番初めに記載したわけです。
もっとも、トレーニングの終了後には「運動後過剰酸素消費(通称 EPOC)」と呼ばれる代謝の上昇現象が確認されています(詳しくはこちらの英語文献を参照)。しかし、だからといって、数100kcalもバンバン消費されるわけではありません。平均にして数10kcalが良いとこです。
安静時代謝の増加について
このような話をすると「トレーニングの消費カロリーはそこまで大きくないかもしれないけど、トレーニングを行うことで筋肉が増えれば、安静時代謝(≒基礎代謝)が増加するので、トータルで見ればダイエットに超効果的なんじゃないの?」と思われる方もいるかもしれません。
確かに、トレーニングを行い筋肉を増やせば、安静時代謝は増加します。では、一体どれほど増加するのかというと、筋肉1kg・1日あたり、約13kcalです(表赤線)。ちなみに、体脂肪は1kg・1日あたり約4.5kcalになります(表青線)。
出典:Elia M, et al.The inter-organ flux of substrates in fed and fasted man, as indicated by arterio-venous balance studies. Nutr Res Rev. 1991 Jan;4(1):3-31.
※表ではMJ(メガジュール)という単位を使っています。
ダイエットやトレーニングの経験がある方は既にご存知だとは思いますが、筋肉は体脂肪と違い、そんな簡単に増えはしません。1ヶ月で体重の1%も増やすことができれば、万々歳です。
つまるところ何を言いたいのかというと「トレーニングを行って筋肉が増え安静時代謝が増加したとしても、体脂肪が減ればその分安静時代謝も減少するので、結局のところ相殺されてしまうよ。いや、むしろ体脂肪の減るスピードが早ければ、安静時代謝は減少の一途を辿るよ。そして、筋肉を1kgも増やすのは時間がかかるよ。さらに、筋肉1kgの安静時代謝は思っているよりも少ないよ」ということです。
もっとも、この13kcalという数値は、あくまでも「筋肉」のみの話に過ぎません。
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、トレーニングを行えば、交感神経系の活性による代謝向上なども起こるとの報告があるため、それも加味すると、筋肉が1kg増えれば、結果として1日あたり〜50kcalほど安静時代謝は増加すると言われています。
しかし、それでも50kcalなのです。
もちろん、長い目で見れば50kcalも決して侮れません。事実、ACSM(American College of Sports Medicine アメリカスポーツ医学会)は
とのタイトルで見解を発表しているのですが、この中に
このような図を盛り込んでいます。和訳をしたものが以下です。
しかしながら、先に記載した1日あたりのアンダーカロリーの目安「体重 × 5〜10kcal」(体重80kgの方では400〜800kcal)を考慮すると、安静時代謝が増加したとしても、この目安をクリアすることに困難なのは変わりありません。さらに、筋肉を増やすには時間がかかります。
このような理由からも「トレーニングのダイエット効果は、巷で言われているほど大きくないかもしれません」と一番初めに記載したわけです。
まとめ
・アンダーカロリー状態を作る必要がある。
・アンダーカロリーの目安は1日あたり「体重 × 5〜10kcal」。
・理論的に、このペースでは1週間で体重の0.5〜1%の体脂肪を落とすことができる。
・トレーニングは運動の一種であるため、トレーニングを行えば当然にカロリーを消費する。
・トレーニングにはダイエット効果がある。
・しかし、一般的なトレーニングの消費カロリーは、上級者で1時間あたり「体重 × 3.5〜4.5kcal」ほど。
・そのため、1日あたりのアンダーカロリーの目安「体重 × 5〜10kcal」をトレーニングだけでクリアすることは困難。
・初心者や、トレーニング経験のない方の消費カロリーはさらに少なくなる。
・運動後過剰酸素消費(EPOC)も、平均にして数10kcal程度。
・トレーニングを行い筋肉を増やせば、安静時代謝は増加する。
・筋肉1kg・1日あたり、約13kcal。
・筋肉は体脂肪と違い、そんな簡単に増えはしない。
・トレーニングを行って筋肉が増え安静時代謝が増加したとしても、体脂肪が減ればその分安静時代謝も減少するので、結局のところ相殺される。
・筋肉を増やすには時間もかかる
・しかし、実際に筋肉が1kg増えれば、交感神経系の活性による代謝向上などの影響で、結果として1日あたり〜50kcalほど安静時代謝は増加する。
・しかし、安静時代謝が増加したとしても、1日あたりのアンダーカロリーの目安「体重 × 5〜10kcal」をクリアすることに困難なのは変わりない。
・以上から、トレーニングのダイエット効果は、巷で言われているほど大きくないかもしれない。
・超がつくほど効果的ではない。
繰り返しになりますが、トレーニングにダイエット効果はあります。しかし、超がつくほど効果的ではありません。さらにそもそも、いくらトレーニングをしたとしても、食事量を増やしアンダーカロリーでなくなれば、ダイエットは成功しません。痩せません。
ダイエットで何よりも重要なのは、アンダーカロリーにすることです。
トレーニングは、アンダーカロリーを作り出す手段の1つです。そして、トレーニングを行い筋肉を増やせば、綺麗でかっこいいボディラインが形成されていきます。