トレーニング種目は、その動作で使う関節の数から「単関節種目」と「多関節種目」に分類することができます。
巷では「単関節種目は、多関節種目より使う関節の数が少ないゆえに、集中的に筋肉へアプローチをかけることができるため、筋力向上・筋肥大に効果的」と言われていますが、実際のところはどうなのでしょうか?
結論から申しますが「単関節種目と多関節種目は、筋力向上・筋肥大において同等の効果がある」というデータと「単関節種目より、多関節種目の方が筋力向上において効果がある」というデータが存在します。
まずは、用語の確認からです。
単関節種目とは?
単関節種目は、単関節運動や単関節エクササイズ・アイソレーション種目とも呼ばれているのですが、文字通り「1つの関節を動かすトレーニング種目」のことで、アームカールなどがこれに該当します。
ちなみに、アームカールは肘関節を動かす単関節種目です。
多関節種目とは?
多関節種目は、多関節運動や多関節エクササイズ・コンパウンド種目とも呼ばれているのですが、文字通り「複数の関節を動かすトレーニング種目」のことで、ラットプルダウンなどがこれに該当します。
ちなみに、ラットプルダウンは肩関節・肘関節を動かす多関節種目です。
単関節種目と多関節種目は筋力向上・筋肥大において同等の効果がある
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、
・29人の若者男性が実験対象。
・2つのグループに分ける。
・1つ目のグループは、単関節種目であるアームカールを実施。
・2つ目のグループは、多関節種目であるラットプルダウンを実施。
・週2回10週間継続。
・8〜12RMの重量で3セット。
・上腕二頭筋の筋力及び筋厚の変化を測定。
という実験が行われました。その結果は以下の通りです。
・アームカールグループは11.87%増加。
・ラットプルダウングループは10.4%増加。
筋厚
・アームカールグループは5.83%増加。
・ラットプルダウングループは6.1%増加。
筋力はアームカールグループが、筋厚はラットプルダウングループが若干の高値を示してはいますが、グループ間で有意な差は確認されませんでした。
そして著者らは「単関節種目(SJ)と多関節種目(MJ)は、つまり、アームカールとラットプルダウンは、筋力向上・筋肥大において同等の効果がある」と結論づけています。
In conclusion, the results of the present study suggest that MJ and SJ exercises are equally effective for promoting increases in upper body muscle strength and size in untrained men.
引用:Single vs. Multi-Joint Resistance Exercises: Effects on Muscle Strength and Hypertrophy
アームカールは、肘関節を屈曲させる(肘を曲げる)際に負荷が働くため、上腕二頭筋を鍛えることが可能です。
一方、ラットプルダウンは肘関節を屈曲させることにプラスして、肩関節を内転させる(開いた脇を閉じる)際にも負荷が働くため、上腕二頭筋のほか広背筋や三角筋後部をも鍛えることができます。
「アームカールの方が、上腕二頭筋の筋力向上・筋肥大が起こる」という結果であれば、上腕二頭筋を鍛える手段としてアームカールを取り入れる価値はあります。
しかし、有意な差がないのであれば、より多くの筋肉を鍛えることのできるラットプルダウンを取り入れた方が効率的であると判断できます。
単関節種目より、多関節種目の方が筋力向上において効果がある
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、
・36人の若者男性が実験対象。
・2つのグループに分ける。
・1つ目のグループは単関節種目を行う。
・2つ目のグループは多関節種目を行う。
・週3回8週間継続。
・ベンチプレス・レッグエクステンション・スクワットの1RM、および除脂肪体重の変化を測定。
という実験が行われました。各グループの詳細は以下をご覧ください。
・ダンベルフライ
・アームカール
・レッグエクステンション
・サイドレイズなど
・12〜18RMの重量を扱い4セット
・ベンチプレス
・デッドリフト
・スクワット
・ラットプルダウンなど
・6〜8RMの重量を扱い4セット
※扱う重量が違いますが、トレーニングボリューム(重量×レップ数×セット数)は同等に設定されています。
その結果は以下の通りです。
・単関節種目グループは8.1%増加。
・多関節種目グループは10.9%増加。
レッグエクステンション1RM
・単関節種目グループは12.4%増加。
・多関節種目グループは18.9%増加。
スクワット1RM
・単関節種目グループは8.3%増加。
・多関節種目グループは13.8%増加。
このように、1RM(筋力)の増加率において「単関節種目グループより、多関節種目グループの方が有意に大きかった」というデータが得られました。
なお、除脂肪体重(≒筋肥大)の増加率に関しては、どちらのグループも有益な変化が起こりましたが、グループ間で有意な差は確認されていません。
まとめ
1つ目に挙げた実験はトレーニング未経験者を対象としているため、トレーニング経験者にこの結果が当てはまるとは限りません。10週間ではなくさらに長い期間では、グループ間で有意な差が確認される可能性も十分にあります。
また「アームカールとラットプルダウンにおける上腕二頭筋の変化」ではなく「リアレイズとラットプルダウンにおける三角筋後部の変化」や「ヒップスラストとスクワットにおける大臀筋の変化」といった実験内容では、これとは違った結果になっていたでしょう。
2つ目に挙げた実験もトレーニング未経験者を対象としているため、トレーニング経験者にこの結果が当てはまるとは限りません。
また、トレーニングボリュームを同等に設定していますが、扱う重量とレップ数を同じにすれば、筋力の増加率に有意な差は確認されなかったかもしれません。
なぜなら、詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、筋力は低重量/高レップよりも、高重量/低レップで増加することが確認されているためです。
しかし「単関節種目より、多関節種目の方が筋力向上において効果がある」というデータがあることは事実ですし「単関節種目より、多関節種目の方が多くの筋肉を鍛えることができる」という利点もありますので、基本的には多関節種目を中心にトレーニングを行った方が良いのではないかと考えております。