トレーニングの経験者であれば、一度は聞いたり考えたことがあると思いますが、ベンチプレスでは、尻上げ肯定派と否定派がいます。
今回の記事は、ベンチプレスにおける「尻上げ」について、私の思いを書き綴っていきますが、最初に結論から申しますと、尻上げベンチプレスを行おうが行わまいが、それは個人の自由です。
犯罪であったり、他人に迷惑をかけたり危険に晒したりしないのであれば、どんなトレーニングをしようとその人の勝手です。
そのため「したいならする。したくないならしない。好きな方を選べば良い。他人がとやかく言うことではない」と考えています。
しかし一方で、パーソナルトレーナーである私のところに、ボディメイクや競技力向上目的で来た受講者に対しては、尻上げベンチプレスを指導することはまずありません。
尻上げベンチプレスとは?
本題に入る前に、尻上げベンチプレスについて説明をしていきますが、これは文字通り「お尻を上げるベンチプレス」になります。
上の動画は、まさに尻上げベンチプレスを映していますので、一度ご覧ください。
なぜ尻上げベンチプレスを指導しないのか?
では、ここから本題に触れていきますが、私が尻上げベンチプレスを指導しない理由は2点あります。それは「効果」と「傷害」です。
効果
まず、1つ目の効果に関してですが、トレーニングでは「重量が軽くなったとしても、可動域を大きくした方が筋肥大しやすいし、様々な関節角度での筋力も増加する」というデータがいくつか存在します(こちらの記事)。
尻上げベンチプレスは、お尻をググッと持ち上げ胸の位置を高くするため、必然的にシャフトの軌道は短くなります。つまり、肩関節及び肘関節の可動域が狭まります。
よって、尻上げベンチプレスは普通のベンチプレスよりも「筋肥大の効果は小さく、様々な関節角度での筋力も向上しにくい」と考察することが可能です。
もっとも「尻上げベンチプレスは普通のベンチプレスよりも、確かに可動域が狭くなるので、筋肥大や筋力の面で不安は残るのはわかるけど、一方でかなりの高重量を扱うことができるから、その分大きな刺激が筋肉に入る。
そしてその結果、長期的には、尻上げベンチプレスの方が最終的に筋肥大するし、様々な関節角度での筋力も増加する」というように思われる人もいらっしゃるかもしれません。
仮にそうだとしましょう。しかし、ここで懸念されるのが傷害です。
傷害
これは、私の経験になるのですが、私は今から10年前に民間のフィットネスクラブにアルバイトとして入社し、以降今までずっとフィットネス業界に身を置いています。
10年間は褒められるほどの長い期間ではありませんが、それでもたくさんの人と接し、話を聞いてきました。そしてその中には「ベンチプレスで肩を痛めた」という人が何十人もいたのですが、その人たちには共通点があります。
では、一体どのような共通点があったのかというと、そのうちの1つが尻上げベンチプレスです。
※やたらと手幅が広かったり、「引く系(背中)」のトレーニングメニューが少なかったり、肩甲骨の寄せが甘かったり…など、他の共通点もあります。
つまり、ベンチプレスで肩を痛める人の大半が、尻上げベンチプレスを実施しているのです。
おそらくですが、尻上げベンチプレスは普通のベンチプレスよりも高重量を扱えるため、その分関節や靭帯に負担がかかったためでしょう。
パーソナルトレーナーは受講者の安全に配慮する義務がある
パーソナルトレーナーは、消費者契約法の関係で、受講者の安全に配慮する義務を持ちます。
パーソナルトレーニング中に受講者が怪我をした場合「トレーナーはその責任を一切取りません」というような文言が契約に盛り込まれていたとしても、それだけでは責任を免れることはできないのです。
先述したように「尻上げベンチプレスは普通のベンチプレスよりも、確かに可動域が (中略) 長期的には、尻上げベンチプレスの方が最終的に筋肥大するし、様々な関節角度での筋力も増加する」仮にそうだとしましょう。
しかし、経験論ではありますが、明らかに肩の傷害率の高いと思われる尻上げベンチプレスを指導することは「受講者の安全に配慮している」とは全く言えないと思っています。
このような理由から、パーソナルトレーナーである私は、尻上げベンチプレスを指導することはまずないのです。
最後に
一番初めに記載しましたが、尻上げベンチプレスを行おうが行わまいが、それは個人の自由です。
「したいならする。したくないならしない。好きな方を選べば良い。他人がとやかく言うことではない」と考えています。
しかし、ベンチプレスで肩を痛める人の大半が、尻上げベンチプレスを実施している、という経験がありますので、とやかく言うことはしませんが、尻上げベンチプレスをしている人を見たときは、少し複雑な気持ちになることも事実です。