〜これまでのおさらい〜
トレーニングを行っている人に勧めるタンパク質の摂取法
・摂取頻度:3〜4時間おき
・摂取回数:6回前後
・押さえておきたい摂取タイミング:起床直後・就寝直前・トレーニング直後
・1回摂取量:体重×0.25gもしくは20〜40g
・品質:肉(牛・豚・鶏)や卵などの動物性タンパク質
トレーニングの指導をしていると、高確率で「プロテイン」に関しての質問を受けます。具体的な内容としては「プロテインにはいくつか種類があるが効果は違うのか?」「もし摂取するなら何を摂取したら良いのか?」などです。
今回の記事は、それらについて書き綴っていきますが、最初に結論から申しますと、プロテインはその種類によって効果が違います。そして、基本的にはホエイプロテインとカゼインプロテインをオススメしています。
そもそもプロテインとは何なのか?
プロテイン(protein)は直訳するとタンパク質になります。もっとも、日本ではタンパク質を主成分としたサプリメント(栄養補助食品)のことを基本的に指しており、粉末を溶かして飲むアレがプロテインです。
プロテインは、スポーツ量販店だけでなくドラッグストアなどでも購入できる非常にメジャーなサプリメントとなっているのですが、いくつか種類があります。
その中でも代表的なものが「ホエイプロテイン」「カゼインプロテイン」「ソイプロテイン」の3つです。
順序が入れ替わりますが、まずはソイプロテインから説明していきます。
ソイプロテイン
「ソイ」は「soy」と書くのですが、これは大豆を意味しています。つまり、ソイプロテインとは、大豆を原材料としたプロテインのことです。
筋肉のタンパク質合成には必須アミノ酸が必要で、中でもロイシンが重要となるのですが、大豆などの植物性タンパク質はこれらの含有量が多くないため、ソイプロテインをオススメすることは基本的にありません。
出典:van Vliet S, et al. The skeletal muscle anabolic response to plant- versus animal-based protein consumption. J Nutr. 145:9:1981-91, 2015
上のグラフは、様々な食品に含まれる必須アミノ酸、及びロイシンの濃度(含有量)を表したものになっているのですが、数値はこのようにそこまで高くないのが見て取れます。
また、下の表はその食品に含まれる必須アミノ酸のバランスや、消化・吸収率を評価した消化性必須アミノ酸スコア(DIAAS)を表したものですが「劇的に低い」とまではいかなくとも、Beef(牛)やPork(豚)・Chicken(鶏)、そのほかなどに比べるとやはり見劣りします。
食品 | DIAAS |
Wheat | 40.2 |
Corn Grain | 42.4 |
Soybean | 99.6 |
Beef | 111.6 |
Pork | 113.9 |
Chicken | 108.2 |
Lamb | 116.8 |
出典:Protein Supplementation of Beef Cattle to Meet Human Protein Requirements
さらに、詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、
・ミルクタンパク質を摂取するグループ。
・大豆タンパク質を摂取するグループ。
・風味をつけた飲み物を摂取するグループ。
・週5回12週間トレーニンングを行ってもらう。
という実験が行われた結果、大豆タンパク質を摂取したグループでは、ミルクタンパク質を摂取したグループほどの筋肥大は起こらない、との結論も得られています。
これらの理由があるため、私はソイプロテインをオススメしていないのです。
ただ、ここで注意をしていただきたいのは「ソイプロテインを摂取する意味はない」というわけではない、ということです。
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、ソイプロテインを摂取するグループとプラセボ飲料(タンパク質を含まない飲み物)を摂取するグループでは、6週間のトレーニング後
・スクワット1RM:ソイは34%、プラセボは19.7%増加。
・ベンチプレス1RM:ソイは13.4%、プラセボは7.1%増加。
というように、除脂肪体重や筋力において、ソイプロテインを摂取するグループの方がより大きな増加を記録しています。
宗教や信条、そのほかアレルギーや好き嫌いなどもあるでしょうから、何か事情がある場合は、ソイプロテインを選択していただいて全く問題ありません。
しかし、必須アミノ酸やロイシンの濃度(含有量)、そのほかバランスや消化・吸収率などを考慮すると、あえてソイプロテインを摂取する必要性が見当たらないのも事実です。
ホエイプロテイン
「ホエイ」は「whey」と書くのですが、これは乳清を意味しています。乳清は牛乳中に含まれる水溶液で、これを加工したものがホエイプロテインです。ヨーグルトを購入すると、白濁した液体が上に溜まっていることがありますが、あれが乳清です。
出典:van Vliet S, et al. The skeletal muscle anabolic response to plant- versus animal-based protein consumption. J Nutr. 145:9:1981-91, 2015
上のグラフは、様々な食品に含まれる必須アミノ酸、及びロイシンの濃度(含有量)を表したものになっているのですが、このように数値の高さはダントツで一番です。そのため、ホエイプロテインは非常に「良質」であるとされています。
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、
・18〜35歳の男女が対象。
・いくつかのグループに分ける。
・1つはホエイプロテインを摂取するグループ。
・1つはソイプロテインを摂取するグループ。
・トレーニングを行ってもらう。
・種目はスクワットやベンチプレス・ラットプルダウンなど
・内容は変化し、12〜15レップの時もあれば3〜6レップの時もある。
・合計96回9ヶ月間継続。
という実験が行われました。その結果、
・ホエイプロテイン3.3 ± 1.5kg増加
・ソイプロテイン1.8 ± 1.6kg増加
というデータが得られ「ホエイプロテインは、ソイプロテインよりも除脂肪体重の増加に効果的」との結論がなされました。
もっとも「ホエイプロテインとソイプロテインでは、除脂肪体重や筋力の増加において、有意な差が確認されなかった」というデータも存在します。詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、
・18〜35歳の男女が対象。
・3つのグループに分ける。
・1つ目はホエイプロテインを摂取するグループ。
・2つ目はソイプロテインを摂取するグループ。
・3つ目はプラセボ飲料を摂取するグループ。
・トレーニングを行ってもらう。
・種目は日によって変わる。
・内容は6〜12レップを4〜5セット。
・6週間継続。
という実験が行われた結果、
・スクワット1RM:ホエイは38.6%、ソイは34%、プラセボは19.7%増加。
・ベンチプレス1RM:ホエイは14%、ソイは13.4%、プラセボは7.1%増加。
となり「除脂肪体重や筋力は、タンパク質の成分に影響を受けず増加した」と結論づけられています。
しかし、この実験は「6週間」とやや短めです。また、有意な差はないとはいえど、ホエイプロテインを摂取したグループの方が、増加率は大きい傾向にあります。
そのため、このまま続けていたら、ホエイプロテインを摂取したグループに軍配が上がっていたでしょう。
カゼインプロテイン
「カゼイン」は「casein」と書くのですが、このカゼインプロテインも、ホエイプロテインと同じく牛乳が原材料になっております。ちなみにですが、牛乳中の含有比率はホエイ:カゼイン=2:8です。
出典:van Vliet S, et al. The skeletal muscle anabolic response to plant- versus animal-based protein consumption. J Nutr. 145:9:1981-91, 2015
上のグラフは、様々な食品に含まれる必須アミノ酸、及びロイシンの濃度(含有量)を表したものになっているのですが、ホエイほどではないにしろ、カゼインはこのようにかなり高い数値を記録しているのがわかります。
そのため、このデータを見た限りでは「ホエイプロテインには勝らなくとも、似たような効果が期待できるのではないだろうか」という考察ができるかもしれませんが、実はそうはなりません。
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、
・20歳前後の若い男性が被験者。
・彼らを3つのグループに分ける。
・1つ目はホエイプロテインを摂取するグループ。
・2つ目はカゼインプロテインを摂取するグループ。
・3つ目はソイプロテインを摂取するグループ。
・トレーニングを行ってもらう。
・種目はレッグプレスとレッグエクステンション。
・内容は10〜12RMを4セット。
・片脚のみ行う。
という実験が行われました。その結果が以下のグラフです。
出典:Tang JE , et al. Ingestion of whey hydrolysate, casein, or soy protein isolate: effects on mixed muscle protein synthesis at rest and following resistance exercise in young men. J Appl Physiol (1985). 2009 Sep;107(3):987-92.
上のグラフは、プロテインを摂取してから3時間後における筋肉のタンパク質合成率を表したものですが、このように、ホエイプロテイン>ソイプロテイン>カゼインプロテインというデータが得られました。
ホエイプロテインならまだしも、ソイプロテインよりも低値となっています。
では、なぜこのようなことが起きたのでしょうか?それは、消化・吸収速度に理由があります。
ホエイプロテインとカゼインプロテインにおける消化・吸収速度
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、タンパク質の消化・吸収速度は、そのタンパク質の種類によって異なるということがわかっております。
ホエイプロテインは消化・吸収が速く、カゼインプロテインは消化・吸収が遅いという特徴があります。
出典:Boirie Y , et al. Slow and fast dietary proteins differently modulate postprandial protein accretion. Proc Natl Acad Sci U S A. 1997 Dec 23;94(26):14930-5.
上のグラフは、ホエイプロテインとカゼインプロテインを摂取した後の血中アミノ酸濃度(ロイシン)を表したものですが、ホエイプロテインは急上昇・急降下しているのに対し、カゼインプロテインは緩やかに上昇・降下しているのが確認できます。
例えば、プロテインを摂取してから100分後では、血中アミノ酸濃度はホエイプロテイン>カゼインプロテインとなっていますが、300分後ではカゼインプロテイン>ホエイプロテインです。
つまり、ホエイプロテインは「短期集中型」といいますか、筋肉のタンパク質を短時間でドバッと合成し、一方カゼインプロテインは「長期のんびり型」といいますか、筋肉のタンパク質を長時間かけてゆっくりと合成するということです。
ちなみにですが、ソイプロテインの消化・吸収速度は2つの中間です。
長時間における筋肉のタンパク質合成
先ほど挙げたように、プロテインを摂取してから3時間後における筋肉のタンパク質合成率は、ホエイプロテイン>カゼインプロテインとなりましたが、カゼインプロテインは消化・吸収が遅いため、もう少し長い時間では異なる結果になると考察することができます。
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、この実験ではトレーニング後ホエイプロテイン・カゼインプロテイン・水(Control)を摂取するグループに分け、6時間に渡り筋肉のタンパク質合成率を調べています。その結果がこちらです。
出典:Reitelseder S , et al. Whey and casein labeled with L-[1-13C]leucine and muscle protein synthesis: effect of resistance exercise and protein ingestion. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2011 Jan;300(1):E231-42.
プロテインを摂取してから1〜3.5時間では、ホエイプロテイン>カゼインプロテインとなっていますが、3.5〜6時間では、カゼインプロテイン>ホエイプロテインとなっているのがわかります。
そして、1〜6時間におけるトータルの筋肉のタンパク質合成率は、有意差はないものの、わずかながらカゼインプロテインが高い数値を記録しました。
ホエイプロテインとカゼインプロテインの摂取タイミング
このような特徴を持つホエイプロテインとカゼインプロテインですが、では一体いつ摂取すれば良いのかと申しますと、ホエイプロテインは起床直後とトレーニング直後、カゼインプロテインは就寝直前に摂取することがオススメされています。
ホエイプロテイン〜起床直後〜
睡眠中は、当然ながらタンパク質を摂取することができません。また、空腹の状態では、筋肉のタンパク質分解が合成を上回るというデータもあります。
そのため、消化・吸収の速いホエイプロテインを起床直後に摂取し、少しでも早くその状況を阻止するわけです。
ホエイプロテイン〜トレーニング直後〜
トレーニングによる筋肉のタンパク質合成作用は少なくとも24時間高まりますが、時間が経つにつれ緩やかに減少していくことがわかっております。
消化・吸収の速いホエイプロテインをトレーニング直後に摂取し、最大限その恩恵にあずかるわけです。
もっとも「トレーニング終了5分後と15分後に摂取するのでは、効果が劇的に変わる」ということはありませんが「トレーニング直後にホエイプロテインを摂取する」という行動は「筋肉のタンパク質合成作用が増加する24時間の間に、しっかりとタンパク質を摂取する」という習慣にもつながるはずです。
なお、推奨されるホエイプロテインの1回摂取量は、体重×0.25gもしくは20〜40gとなっています。
カゼインプロテイン〜就寝直前〜
睡眠中は、当然ながらタンパク質を摂取することができません。しかし、消化・吸収の遅いカゼインプロテインを摂取すれば、血中アミノ酸濃度を長い時間ある程度高めに保つことができ、睡眠中全体に渡って筋肉のタンパク質合成を行うことが可能です。
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、睡眠中は腸運動があまり活発ではない、つまり消化・吸収能力が低下するとのデータがあるため、カゼインプロテインの1回摂取量は少し多めが推奨されています。
具体的な数値ですが、国際スポーツ栄養学会(International Society of Sports Nutrition)のガイドライン「protin and exercise」では「30〜40g」となっています。
注意点
「ホエイプロテインは起床直後とトレーニング直後、カゼインプロテインは就寝直前に摂取することがオススメされています」と記載しましたが、これはあくまでも「朝起き→昼働き→夜眠る」といった一般的な人における話であり、そのタイミング以外で飲むことは良くない、というわけではありません。
例えばですが「今から7時間近くはタンパク質を摂取している暇はないな」などという場合は、就寝直前でなくともカゼインプロテインを摂取した方が良いでしょう。
また、お仕事などの関係では夜3時間・昼3時間(仮眠)などをする場合もあると思います。そんな時は睡眠時間が3時間と短いため、就寝直前であってもホエイプロテインを摂取した方が良いでしょう。
さらに、起床直後やトレーニング直後でなかったとしても「3時のおやつ代わりにホエイプロテインを摂取する」なども当然可です。
つまるところ、その状況に合わせて取り組むことが一番となります。
まとめ
・大豆が原材料。
・必須アミノ酸、及びロイシンの濃度(含有量)はそこまで高くない。
・そのためオススメしていない。
・もっとも「摂取する意味はない」というわけではない。
・牛乳が原材料。
・必須アミノ酸、及びロイシンの濃度(含有量)がダントツで一番。
・消化・吸収が速い。
・体重×0.25gもしくは20〜40gを、起床直後とトレーニング直後に摂取することが推奨されている。
・牛乳が原材料。
・必須アミノ酸、及びロイシンの濃度(含有量)はホエイプロテインほどではないにしろかなり高い。
・消化・吸収が遅い。
・30〜40gを、就寝直前に摂取することが推奨されている。
・睡眠時間や状況によっては臨機応変に取り組むべき。
・3〜4時間ごとに摂取できるのであればホエイプロテインを。
・6時間以上空くのであればカゼインプロテインを。
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