筋肉は、常に合成と分解を繰り返しています。そして、この2つの作用は基本的に均衡が取れており、筋肉量はある程度一定に保たれています。
そのため、今よりも筋肉量を増やす、つまり筋肥大や筋力の向上を起こそうとした場合は、合成を分解よりも上回らせる必要があります。
では、どうすれば合成を分解よりも上回らせることができるかというと「筋肉に刺激を与えるトレーニング」と「筋肉の材料となるタンパク質の十分な摂取」を行うことです。
「筋肉の材料となるタンパク質の十分な摂取」を行う上では、タンパク質の1日摂取量のほか摂取頻度・摂取回数などにも気をつける必要があるのですが、私の推奨する内容は以下のようになっています。
・摂取頻度:3〜4時間おき
・摂取回数:6回前後
・押さえておきたい摂取タイミング:起床直後・就寝直前・トレーニング直後
・1回摂取量:体重×0.25gもしくは20〜40g
しかし、効果をさらに高めたいのであれば、摂取するタンパク質の品質にもこだわる必要があります。結論から申しますが、植物性タンパク質ではなく、動物性タンパク質を中心に摂取されることをオススメしています。
タンパク質とアミノ酸
私たちの身体(筋肉や臓器・腱・皮膚など)はタンパク質で構成されていますが、このタンパク質はアミノ酸により構成されています。つまり、アミノ酸とはタンパク質の基となる成分です。
このアミノ酸は、体内で作ることのできない必須アミノ酸と、体内で作ることのできる非必須アミノ酸に分けることができます。
必須アミノ酸
・バリン
・ロイシン
・イソロイシン
・メチオニン
・リジン
・フェニルアラニン
・トリプトファン
・トレオニン
・ヒスチジン
必須アミノ酸は上に挙げた9種類があるのですが、体内で作ることができないため、食物から摂取する必要があります。
必須アミノ酸には、その分子構造から分岐鎖アミノ酸、通称BCAAと呼ばれているものがあるのですが、バリン・ロイシン・イソロイシンの3種類がそれに該当します。
非必須アミノ酸
・アルギニン
・グリシン
・アラニン
・セリン
・チロシン
・システイン
・アスパラギン
・グルタミン
・プロリン
・アスパラギン酸
・グルタミン酸
非必須アミノ酸は上に挙げた11種類があるのですが、 体内で作ることができるため、食物から摂取する必要性は少ないとされています。しかし、利尿作用や胃腸粘膜の保護など、生体を正常に保つ働きがあるため「健康」においては非常に重要なものです。
筋肉のタンパク質合成には必須アミノ酸が必要となる
アミノ酸は、このように2つに分類することが可能ですが、筋肉のタンパク質合成には非必須アミノではなく「必須アミノ酸」が必要になるということがわかっています。
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、
・20歳前後の男女が対象。
・トレーニングを行ってもらう。
・運動終了から1時間後と2時間後に体重1kgあたり0.087g(約6g)の必須アミノ酸を摂取。
という実験が行われました。
この実験で得られたデータを、以前のデータ(必須アミノ酸3g+非必須アミノ酸3g)と比較したところ、筋肉のタンパク質合成において「2倍の応答があった」という結果が得られたためです。
国際スポーツ栄養学会(International Society of Sports Nutrition)のガイドライン「protin and exercise」には、
「競技者は、全ての必須アミノ酸を含むタンパク質の食品を摂取するべきである」
そのほか、
「筋肉のタンパク質合成は、食事のタンパク質含有量に応答して、おおよそ30〜100%増加する。そして、この反応の主な要因は必須アミノ酸の含有量である」
との記載がされています。
必須アミノ酸のバランスは食品によって違う
タンパク質はアミノ酸により構成され、アミノ酸は必須アミノ酸と非必須アミノ酸に分けられ、筋肉のタンパク質合成には必須アミノ酸が必要になるということがわかりました。
しかし、ここで気をつけてもらいたいのは、必須アミノ酸のバランスはその食品よって違いがあるということです。
プロテインスコアとアミノ酸スコア
プロテインスコアは、国際連合食糧農業機関(FAO)が1950年代に提唱した、アミノ酸スコアは、FAOと世界保健機関(WHO)が1970年代に提唱した(1985年時改訂)、食品に含まれる必須アミノ酸の含有比率を評価するための数値となっています。
噛み砕いた表現になりますが、その食品に含まれる必須アミノ酸9種類のバランスの良さを点数化したものです。
この2つのスコアは100を最高値としており、100に近づけば近づくほど「良質」とされます。
・牛肉:100
・豚肉:100
・鶏肉:100
・卵:100
・牛乳:100
・米(精白米):65
・パン(小麦):44
・大豆:100
・とうもろこし:74
上は、1985年改訂時のアミノ酸スコアを表したものです。
タンパク質消化性補正アミノ酸スコア(PDCAAS)と消化性必須アミノ酸スコア(DIAAS)
PDCAASは、1990年代にアメリカ食品医薬品局(FDA)及びFAO/WHOにより提唱された次なる指標です。従来のプロテインスコアやアミノ酸スコアとは異なり、消化・吸収率が考慮されています。
プロテインスコアをバージョンアップ→アミノ酸スコア、アミノ酸スコアをバージョンアップ→PDCAASと思っていただければわかりやすいかもしれません。
しかし、近年ではPDCAASではなく、2013年にFAOが提唱したDIAASを使うことが推奨されています。
詳しく知りたい方は(FAO report on dietary protein quality evaluation in human nutrition)を見ていただきたいのですが、スコアの上限を廃止したり(今までは100が最高)、消化・吸収率をさらに正確に評価しているためです。
なお、DIAASは以下のようになっております。
・牛肉(Beef):111.6
・豚肉(Pork):113.9
・鶏肉(Chicken):108.2
・卵(Eggs):116.4
・牛乳(Milk):115.9
・小麦(Wheat):40.2
・大豆(Soybeans):99.6
・とうもろこし(Corn Silage):42.4
出典:Protein Supplementation of Beef Cattle to Meet Human Protein Requirements
このように、肉や卵などの動物性タンパク質では数値が高く、小麦やトウモロコシなどの植物性タンパク質では数値が低くなっているのがわかります。
そのため、私は植物性タンパク質ではなく、動物性タンパク質を中心に摂取されることをオススメしているわけです。
必須アミノ酸の摂取量
国際スポーツ栄養学会のガイドラインでは、必須アミノ酸を1回あたり6〜15g摂取することを推奨しています。
下のグラフは、様々な食品に含まれる必須アミノ酸の濃度(含有量)を表したものになっているのですが、白グラフが植物性タンパク質、灰グラフが動物性タンパク質です。
出典:van Vliet S, et al. The skeletal muscle anabolic response to plant- versus animal-based protein consumption. J Nutr. 145:9:1981-91, 2015
見てもらえればわかるのですが、動物性タンパク質の方が、全体的に数値が高くなっています。具体的な濃度としては45%ほどです。そのため、国際スポーツ栄養学会が推奨する最低ラインの6gをクリアするには、約13g摂取すれば良いということになります。
一方、植物性タンパク質では35%ほどの濃度となっています。そのため、国際スポーツ栄養学会が推奨する最低ラインの6gをクリアするには、約17gも摂取しなくてはなりません。おおよそ1.3倍です。
そのため、私は植物性タンパク質ではなく、動物性タンパク質を中心に摂取されることをオススメしているわけです。
筋肉のタンパク質合成にはロイシンが重要となる
必須アミノ酸は9種類あるわけですが、その中でもBCAAの「ロイシン」が、筋肉のタンパク質合成において重要になるということがわかっています。
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、
・18〜35歳の男性が対象。
・3つのグループに分ける(※本当は5つのグループに分けていますが、説明をわかりやすくするため省きます)。
・1つ目はタンパク質6.25gを摂取するグループ。
・2つ目はタンパク質25gを摂取するグループ(以下高タンパク)。
・3つ目はタンパク質6.25gにロイシンを5gプラスして摂取するグループ(以下低タンパク+ロイシン)。
・トレーニングを行ってもらう。
・トレーニング種目はレッグエクステンション。
・約80%1RMで10〜12レップ8セット。
・トレーニング終了後それぞれを摂取。
という実験が行われました。その結果がこちらです。
出典:Churchward-Venne TA, et al. Leucine supplementation of a low-protein mixed macronutrient beverage enhances myofibrillar protein synthesis in young men: a double-blind, randomized trial. Am J Clin Nutr. 2014 Feb;99(2):276-86.
上のグラフは、トレーニング終了から4.5時間後における筋肉のタンパク質合成率を表したものですが、高タンパクと低タンパク+ロイシンでは、同等の筋肉のタンパク質合成が確認されたというデータがあるためです。
ロイシンの摂取量
国際スポーツ栄養学会のガイドラインでは、ロイシンを1回あたり0.7〜3g摂取することを推奨しています。
下のグラフは、様々な食品に含まれるロイシンの濃度(含有量)を表したものになっているのですが、白グラフが植物性タンパク質、灰グラフが動物性タンパク質です。
出典:van Vliet S, et al. The skeletal muscle anabolic response to plant- versus animal-based protein consumption. J Nutr. 145:9:1981-91, 2015
見てもらえればわかるのですが、動物性タンパク質の方が、全体的に数値が高くなっています。具体的な濃度としては10%ほどです。そのため、国際スポーツ栄養学会が推奨する最低ラインの0.7gをクリアするには、約7g摂取すれば良いということになります。
一方、植物性タンパク質では7%ほどの濃度となっています。そのため、国際スポーツ栄養学会が推奨する最低ラインの0.7gをクリアするには、約10gも摂取しなくてはなりません。おおよそ1.4倍です。
そのため、私は植物性タンパク質ではなく、動物性タンパク質を中心に摂取されることをオススメしているわけです。
動物性タンパク質VS植物性タンパク質
では、動物性タンパク質と植物性タンパク質では、トレーニングの効果にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、
・18〜30歳の男性が対象。
・3つのグループに分ける。
・1つ目はミルクタンパク質(動物性タンパク質)を摂取するグループ(以下Milk)。
・2つ目は大豆タンパク質(植物性タンパク質)を摂取するグループ(以下Soy)。
・3つめは風味をつけた飲み物を摂取するグループ(以下Control)。
・トレーニング内容は週によって変わり4〜6レップの時もあれば10〜12レップの時もある。
・トレーニング種目はベンチプレスやラットプルダウン・レッグプレスなど。
・週5回12週間トレーニンングを行ってもらう。
という実験が行われました。その結果がこちらです。
出典:Hartman JW, et al. Consumption of fat-free fluid milk after resistance exercise promotes greater lean mass accretion than does consumption of soy or carbohydrate in young, novice, male weightlifters. Am J Clin Nutr. 2007 Aug;86(2):373-81.
上のグラフは、タイプⅠ筋線維(遅筋)とタイプⅡ筋線維(速筋)における筋肉の増加量を表したものですが、ミルクタンパク質を摂取したグループの方が、より大きな筋肥大が起きるとの結論が得られました。
なお、除脂肪体重の変化に関しては以下の通りです。
・Milk:6.2%増加
・Soy:4.4%増加
・Control:3.7%増加
まとめ
「植物性タンパク質ではなく、動物性タンパク質を中心に摂取されることをオススメしています」と記載しましたが、例えば宗教や信条、そのほかアレルギーや好き嫌いなどで、動物性タンパク質の摂取が難しい方もいらっしゃると思います。
もちろん、そのような場合は、無理に動物性タンパク質を摂取する必要は全くありません。
なぜなら「植物性タンパク質を摂取しても何も意味はない。だから動物性タンパク質の摂取をオススメする」ではなく「植物性タンパク質を摂取するよりも、動物性タンパク質を摂取した方がより大きな効果を期待できる。だから、動物性タンパク質の摂取をオススメする」となっているためです。
結局のところ、個人にあった選択をするのが一番です。しかし、何か特別な理由がない場合は、あえて植物性タンパク質を選択する必要性はないように感じます。
なお、国際スポーツ栄養学会のガイドラインでは、必須アミノ酸とロイシンについてこう触れています。
「多量のロイシンは、筋肉のタンパク質合成を刺激し、増加させることが示されている。バランスのとれた必須アミノ酸の摂取は、最大限の増加を促進する」
・具体的には肉(牛・豚・鶏)や卵など。
・なぜなら、必須アミノ酸のバランスや消化・吸収率を評価したDIAASが高いからである。
・なぜなら、必須アミノ酸の濃度(含有量)が高いからである。
・なぜなら、ロイシンの濃度(含有量)が高いからである。
・ロイシンの摂取量も重要だが、それ以上に必須アミノ酸のバランスや摂取量に重点を置く。
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