詳しくは(厚生労働省e-ヘルスネット)を見ていただきたいのですが、過剰に体脂肪が蓄積された状態である「肥満」は、糖尿病や脂質代謝異常症・高血圧など、数多くの疾患の元になることがわかっています。
また、見た目的にも「かっこいい身体」とは一般論として言い難いでしょう。
肥満は「食習慣の変化」や「身体活動量の低下」に原因があるとされているため、例えば、
・1日の摂取エネルギーを制限する
など食習慣を見直したり、
・何らかのスポーツを行う
など身体活動量を増加させることが、肥満を解消する方法となります。
つまり、肥満を解消するためには「栄養」と「運動」の2点からアプローチをかけることが重要となるわけです。
運動には、テニスやフットサルなどのスポーツをはじめとし、トレーニングやエアロビクスなど様々なものがありますが「肥満を解消させたい(体脂肪を減少させたい)のであればランニングを行いましょう!」と指導するトレーナーが多く見られます。
ランニングは「道」があればすぐさま行えますし、それ相応にエネルギーの消費が期待できるからでしょう。
確かに、ランニングには体脂肪を減少させる効果があります。詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただいきたいのですが、1週間に5km以上走り、かつ栄養にも気を使った場合は、1年間で平均約6kgほどの体脂肪の減少が確認されています。
しかし、私はこの指導方法にはあまり賛成できません。反対の立場をとっています。
今回の記事は「肥満の人が体脂肪を減少させる手段としてランニングを行うことに、なぜ反対の立場をとっているのか」について書き綴っていきますが、最初に結論から申しますと、着地の際の衝撃(着地衝撃)で傷害を負うリスクが高いためです。
ランニングでは体重の1.5〜5倍の着地衝撃が発生する
出典:Hreljac A . Impact and overuse injuries in runners. Med Sci Sports Exerc. 2004 May;36(5):845-9.
上は、ごくごく一般的なランニングにおける地面反力を表したグラフとなっています。つまり、踵が地面と接触した瞬間(0.00秒)から、つま先が地面と離れる瞬間(0.25秒)まで、どれほどの地面反力が生じたかを表したグラフです。
地面反力:足が地面を押す力に対応して、地面が足に与える反作用の力。
グラフの左側には小高い山が確認できますが、この小高い山が「Impact Peak」つまり「着地衝撃」となっています。縦軸と照らし合わせると、その高さはおおよそ「2.2」くらいでしょうか。
この「2.2」という数値は「BW(Body Weight)」つまり「体重」の倍率を表しており「ごくごく一般的なランニングにおいては、体重の2.2倍の着地衝撃が発生する」ということが言えます。
もっとも、着地衝撃は「走る速度」「着地の仕方」「シューズのクッション性」「地面の材質」などによって変化することが確認されており、その変化幅は「体重の1.5〜5倍」となっています。
つまり、体重100kgの人がランニングを行うと、少なくとも150kg以上の、場合によっては500kg近い着地衝撃が発生するということです。
そのため「肥満の人ではこの着地衝撃が大きくなるゆえ、傷害を負うリスクが高いのではないか」と考察することができます。
文献を見てみる
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、この文献では着地衝撃とランニングにおける傷害の関係性を調べています。それを、私なりにまとめたものが以下の通りです。
・最大で70%のランナーが、1年間で何らかの傷害を負っていると推定される。
・傷害の例としては、疲労骨折・脛骨過労性骨膜炎(シンスプリント)・膝蓋軟骨軟化症・足底筋膜炎・アキレス腱炎などが挙げられる。
・傷害を負ったことのある人は、新たな傷害を負う可能性を高めるというデータが存在する。
・傷害は着地衝撃のほか、足部のアーチの高さ・足関節の可動域・左右の足の長さの違いなども原因となる。
このように「着地衝撃の小さいランナーは、傷害を負うリスクが低い(着地衝撃の大きいランナーは、傷害を負うリスクが高い)」というデータがあるため、肥満の人が体脂肪を減少させる手段としてランニングを行うことに、反対の立場をとっているわけです。
しかしながら
「肥満の人が体脂肪を減少させる手段としてランニングを行うことに、反対の立場をとっている」と書きましたが「絶対にランニングを行ってはいけません!」などと言うつもりは毛頭ありません。
ランニングには、体脂肪を減少させる効果があることは事実ですし、そのほかいくつかのメリットが存在するためです。
メリットその1 お金がかからない
もちろん、最低限の装備(ウェアやシューズ)は用意しないといけないため、全くお金がかからないというわけではありません。
しかし、ランニングは「道」があればすぐさま行えるので、トレーニングやエアロビクスなどを行う際に必要な「スポーツジムの会費代」つまり「月々の出費」がありません。
メリットその2 目でも楽しめる
同じ場所でランニングを行えど、日本には四季がありますので、季節によって景色が変わります。春から夏にかけては緑を、秋から冬にかけては紅葉を楽しむことが可能です。
まとめ
先述した通り、ランニングにはいくつかのメリットが存在するため「絶対にランニングを行ってはいけません!」などと言うつもりは毛頭ありません。
また、
着地の仕方:かかと着地は着地衝撃を高める
シューズのクッション性:低いほど着地衝撃を高める
地面の材質:硬いほど着地衝撃を高める
とのデータがあるため、例えば「クッション性の高いシューズを履き芝生の上でランニング」といった内容であれば、さほど傷害を気にする必要はないでしょう。
しかし、傷害を負ってしまっては元も子もありません。
特に、下肢の傷害は「トイレに行く」や「階段を上る」など、日常的な動作にも影響を及ぼしますので、肥満の人が体脂肪を減少させる手段としてランニングを行うことには、やはり反対の立場をとります。