前回の記事(スクワットにおける膝とつま先の位置 結論 スク膝⑤)では、スクワットにおける膝とつま先の位置について
このような結論に達した理由を示しました。
しかし、必ずしも「膝はつま先のほぼ真上に位置することになる」わけではありません。今回の記事は、その例外について書き綴っていきます。
ナロースタンス
私は基本的にお客様に対して、支持基底面の大きさや長さを考慮し「足幅は肩幅よりも(やや)広め、つま先は(やや)外に向けて」と指導していますが、実は自分でスクワットを行うときは、つま先は外に向けるものの、足幅は肩幅よりも狭めています。
つまり「ワイドスタンス(気味)」ではなく「ナロースタンス(気味)」でスクワットを行っているということです。
では、なぜナロースタンスなのかというと、これは「鈍さ」と「恐怖心」に原因があります。
今から10年ほど前私は交通事故に巻き込まれ、足首を怪我しました。怪我の度合いは決して軽いとはいえず、入院期間は2ヶ月半、手術回数は計3回、スムーズに走れるようになるまで6ヶ月を要しました。
リハビリの際、理学療法士からワイドスタンスのスクワットを教えてもらったのですが、どうもワイドスタンスでは足首に強い痛みが走ったため、そのことを理学療法士に伝えると「じゃあ、ナロースタンスではどうだろうか」と教えていただき、ナロースタンスでスクワットを実施したところ、ほぼ痛みはありませんでした。
もっとも、今現在は完治していますので、ワイドスタンスでも痛みは感じないのですが、後遺症なのか高重量を扱うと足首に若干の鈍さが生じ、その鈍さが痛みに変わるのではないか?と恐怖心にかられます。
このような理由から、私はナロースタンスでスクワットを行っているわけです。
そして、このナロースタンスでは物理的に「膝はつま先のほぼ真上に位置することになる」が不可能な場面があります。
矢状面上のモーメントアーム
上の写真は、ナロースタンスとワイドスタンスでハーフスクワットを行った際を写したものですが、横から見たときの太ももの長さは「ナロースタンス > ワイドスタンス」このようになっているのがわかります(下写真)。
もちろん、純粋な太ももの長さが変わったわけではありません。あくまでも変わったのは、横から見たときの太ももの長さ、です。
そして、この長さは、専門用語で「矢状面上のモーメントアーム」と呼ばれています。
ナロースタンスは重心線が支持基底面から外れやすい
ワイドスタンスは矢状面上のモーメントアームが短いため、下写真のようにお尻を後ろに突き出しても、深くしゃがむことができます。
矢状面上のモーメントアームが短いということは、お尻を後ろに突き出しても、重心がそこまで後ろに移動しないためです。
一方、ナロースタンスは矢状面上のモーメントアームが長いため、下写真のようにお尻を後ろに突き出すと、太ももが地面と水平になる手前あたりで後ろに転倒してしまいます。
矢状面上のモーメントアームが長いということは、お尻を後ろに突き出すと、重心がそれなりに後ろに移動し、支持基底面から重心線が外れてしまうためです。
では、ナロースタンスでは深くしゃがむことはできないのかというと、そんなことはありません。下写真のように膝を前に出せば、深くしゃがむことができます。
膝を前に出したことで重心が前方に移動し、支持基底面内に重心線を留めることができたためです。
まとめ
私のように何らかの理由があり「ワイドスタンス(気味)」ではなく「ナロースタンス(気味)」でスクワットを、それも結構深くしゃがむスクワットを行う場合は、支持基底面と重心線の関係から、膝はつま先よりも前方に位置することになります。
「膝をつま先のほぼ真上に位置させたまま、ナロースタンスで深くしゃがむ」は、物理的な問題で不可能です。筋力や柔軟性・気合・根性の問題ではありません。
今回はナロースタンスを例に挙げ例外を書き綴りましたが、つまるところ、状況によっては「膝はつま先のほぼ真上に位置することになる」わけではない、ということを知っていただければ幸いです。
次回は、スク膝シリーズをまとめていきたいと思います。最終回です。
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