人のトレーニングを見ていると、可動域の大きい人と、可動域の小さい人がいます。
スクワットを例に出すと、しっかりとしゃがむ人が「可動域の大きい人」浅くしゃがむ人が「可動域の小さい人」です。
可動域が大きいトレーニングと、可動域が小さいトレーニングでは、効果は変わるのでしょうか?また、もし変わるのであれば、一体どちらを取り入れるべきなのでしょうか?
最初に結論から申しますが、可動域で効果は変わります。そして、トレーニングでは可動域を大きく取るべきです。
可動域を大きく取るスクワットと可動域を小さく取るスクワットが筋力・筋肉量・ジャンプ力に及ぼす影響
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、
・男子大学生が対象。
・2つのグループに分ける。
・1つは膝関節の屈曲角度が120°のディープ(深い)スクワット、つまり可動域を大きく取るグループ(以下可動大)。
・1つは膝関節の屈曲角度が60°のシャロウ(浅い)スクワット、つまり可動域を小さく取るグループ(以下可動小)。
・それぞれの1RMを計測し週3回12週間トレーニングを実施。
・トレーニング内容は曜日により異なるが3RMから12〜13RMの重量を使用。
・筋力や筋肉量・ジャンプ力にどのような影響を及ぼすのか調べる。
という実験が行われました。
筋力
まずは筋力についてですが、
・可動小は、シャロウスクワットの1RMは36%増加したが、ディープスクワットの1RMは9%しか増加しなかった。
・可動大の膝関節伸展力は様々な関節角度において増加。
・可動小の膝関節伸展力は可動大ほど増加しなかった。
というデータが得られました。
ここで注目していただきたいのは、可動大はディープスクワット及びシャロウスクワット両方の1RMの増加に効果的でしたが、可動小はディープスクワットの1RMの増加にさほど効果的ではなかったという点です。
これは「関節角度特異性」と呼ばれているのですが「筋力は、トレーニングを行った際の関節角度、またはそれに近い角度にて増加する」ということがわかっています。
出典:C. Thepaut-Mathieu et al.(1988)
上のグラフは、肘関節の屈曲角度を25°・80°・120°に設定し、アイソメトリックトレーニングを実施した際の「筋力の増加率」を表したものですが、25°で実施した場合は25°の筋力が著しく増加し(赤矢印)、120°で実施した場合は120°の筋力が著しく増加しているのが確認できます(緑矢印)。
そのため、ある特定の関節角度のみの筋力を増加させたいのであれば、アイソメトリックもしくは可動域を小さく取るトレーニングを取り入れ、様々な関節角度の筋力を増加させたいのであれば、可動域を大きく取るトレーニングを取り入れるべきでしょう。
筋肉量
次は筋肉量についてですが、可動大は可動小よりも有意に大きな筋肉量の増加が観察されました。
出典:Bloomquist K, et al. Effect of range of motion in heavy load squatting on muscle and tendon adaptations. Eur J Appl Physiol. 2013 Aug;113(8):2133-42.
上のグラフは、大腿四頭筋の筋肉量の増加率を、黒は可動大を、白は可動小を、下の数字9は太もも付け根側の筋肉を、下の数字4は膝側の筋肉を表していますが、可動大は様々な部位の筋肉量が増加しているのに対し、可動小は太もも付け根側の筋肉量しか増加していないのが見て取れます。
筋肉量の増加を目的とするのであれば、可動域を大きく取るトレーニングを取り入れるべきでしょう。
ジャンプ力
最後はジャンプ力についてですが、この実験では「スクワットジャンプ」と「カウンタームーブメントジャンプ」の2種類を測定しています。
ちなみに、これらジャンプ形態の詳細は、
スクワットジャンプ:しゃがんだ状態からの垂直跳び
カウンタームーブメントジャンプ:腰に手を添えた垂直跳び
となっていますが、
・カウンタームーブメントジャンプは可動大で13%、可動小で7%増加。
というデータが得られました。
ジャンプ力の増加を目的とするのであれば、可動域を大きく取るトレーニングを取り入れるべきでしょう。
まとめ
・可動域の大きいスクワットは、可動域の小さいスクワットよりも様々な部位で筋肉量が増加する。
・可動域の大きいスクワットは、可動域の小さいスクワットよりもジャンプ力が増加する。
ということがわかりました。
もっとも、スクワットでなくアームカールでも似たような実験が行われているのですが、筋力・筋肉量ともに同様の結果が得られております(詳しくはこちらの英語文献を参照)。
また、ジャンプ力に関しても同様の結果が得られております(詳しくはこちらの英語文献を参照)。
このような理由から「トレーニングでは可動域を大きく取るべき」と記載したわけです。
しかし、場合によっては、可動域を小さく取るよう指導する時もあります。可動域を一部に制限して、トレーニングを行ってもらうよう指導する時もあります。
ご興味のある方は(フルレンジではなくパーシャルレンジでの筋トレを推奨する時もある)をご覧ください。