身長が高い人もいれば、低い人もいます。神経質な人もいれば、大雑把な人もいます。スポーツが得意な人もいれば、苦手な人もいます。
私たち人間には、体格・性格・運動神経などにおいて「個人差」が存在しますが、トレーニングの効果にも個人差は存在します。
つまり「力がつきやすい人もいれば、つきにくい人もいる。筋肉がつきやすい人もいれば、つきにくい人もいる」ということです。
同じトレーニングを行っているにも関わらずパート①
・トレーニング経験のない20歳前後の男性53名が被験者。
・種目は大腿四頭筋を鍛えるレッグエクステンション。
・1RMの80%で10回4セット。
・セット間休憩時間は2分間。
・週3回9週間継続。
・食事量は今まで通り。
という実験が行われました。その結果は以下の通りです。
上のグラフChange in forceは「筋力の変化」を、下のグラフChange in PCSAは「生理学的筋断面積の変化(いかに筋肥大したか)」を表しているのですが、見ていただければわかる通り、同じトレーニングを行っているにも関わらず、大きなばらつきがあるのがわかります。
筋力の増加範囲は「−1 〜 +44%」生理学的筋断面積の増加範囲は「−3 〜 +18%」です。
それどころか、トレーニングを行っているにも関わらず、生理学的筋断面積が減少する被験者も5名見られました。
もっともこの文献では「5名の生理学的筋断面積が減少した原因は、測定の際に生じた小さな誤差による可能性があり、実際には変化ない」と説明されているのですが、それでも大きなばらつきがあることには変わりありません。
同じトレーニングを行っているにも関わらずパート②
・男子大学生4名が被験者。
・ショルダープレスやベンチプレスなど様々な種目でトレーニングを実施。
・1RMの70%で10回3セット。
・週3回約2ヵ月継続。
という実験が行われました。その結果は以下の通りです。
出典:柳川 和優. 磨井 祥夫. 1RM 推定によるウエイト・トレーニング・プログラムの検証. 広島経済大学研究論集 第34巻第1号2011
上の表は、男子大学生4名における1RM(筋力)の増加率を表しているのですが、例えばベンチプレスではAが3.9%、Bが11.0%、Cが22.0%、Dが15.8%増加しています。
先に紹介した実験同様、こちらでも大きなばらつきがあるのがわかります。
トレーニングの効果にはなぜ個人差があるのか?
このように、トレーニングの効果には大きなばらつきが、つまり「筋力の増加や筋肥大の度合いには個人差がある」ことが確認できましたが、では一体なぜこのようなことが起こるのかというと、トレーニングの内容や栄養摂取状況といった「環境要因」のほか、alpha-Actinin-3(ACTN3 アルファ-アクチニン3)という遺伝子、つまり「遺伝要因」に理由があるとされています。
「持って生まれたもの」「天性のもの」と言われるアレです。
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、
・若い男性が対象。
・彼らの遺伝子を調べる。
・alpha-Actinin-3をXX型とRR型にタイプ分けする。
・筋線維のタイプの割合を調べる。
という実験を行ったところ「XX型よりも、RR型の方が速筋線維(TypeⅡx)の割合が大きい」ということがわかりました。
また、この実験では「相対的な膝関節の伸展力(筋力)」も測定しているのですが「XX型よりも、RR型の方が強い」というデータが得られました。
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが「速筋線維は、遅筋線維(TypeⅠ)に比べて筋肥大しやすい」ということが確認されているため「XX型よりも、RR型の方が筋肥大しやすい」と考察することができます。
まとめると
ということです。
遺伝子が、競技パフォーマンスにどのような影響を及ぼすかを調べた日本語文献を一つ載せておきますので、興味のある方は是非一度ご覧ください。
ACE遺伝子およびACTN3遺伝子多型が持久系パフォーマンスに与える影響
まとめ
トレーニングの効果には個人差が存在します。ただ、ここで1つ注意していただきたいのは「個人差が存在する」というだけです。
「適切なトレーニング」と「適切な栄養」を行えば、それ相応の時間はかかりますが、基本的にはどんな方でも筋力の増加や筋肥大は起こります。力が、そして筋肉がつきます。
しかし、トレーニングの効果には個人差が存在することは事実であるため「自分と他人の伸び率」を比較することを、私はあまりオススメしていません。
比較することで、トレーニングの内容を見直す良い機会になったり、モチベーションが高まったりと好影響を及ぼす場合もあるでしょうが、一方でトレーニングの内容がめちゃくちゃになったり、モチベーションが低まったりと悪影響を及ぼす場合もあるからです。
そのため、もし比較するのであれば「過去の自分と今の自分」を、私はオススメしています。1ヶ月・3ヶ月・半年・1年前から見てどう変わったのか、つまり「成長を純粋に楽しむ」ことを、私はオススメしています。