代表的なトレーニング種目にスクワットがありますが、足幅・足の向きはどのように設定されているでしょうか?
私は、支持基底面や関節可動域、そのほかニーイン・トゥーアウトなどを考慮し「足幅は肩峰間隔の150〜170%に広げる。目安としては肩幅よりも広め。つま先は外に向ける」と指導しています(オススメ筋トレ種目スクワットの効果・やり方・呼吸を解説)。
何に重きを置くかは人それぞれなので「私のやり方こそが正しい」とはもちろん言いませんが、少なくとも身長の高い人においては、足幅を広く取り足を外に向けるべきです。
今回の記事は、なぜそのような主張をするのかを書き綴っていきます。
まず初めに
この記事では、モーメントアームと支持基底面・重心線そして運動面の知識が少しばかり必要になります。これらに不安のある方は、
(筋トレ知識 モーメントアームとトルクとは?)
(筋トレ知識 安定性に関わる要因① 支持基底面の大きさと形状)
(筋トレ知識 安定性に関わる要因② 重心と重心線)
(筋トレ知識 運動学における矢状面・前額面・水平面の3つの面について)
をご覧ください。
1つの記事あたり、5分もあれば読める内容になっているはずです。もっとも、これらの知識がなくとも読み進めることは可能ですが、理解度が大きく変わるとは思います。
大腿骨と脛骨
私たちの太ももには大腿骨、スネには脛骨と呼ばれる骨が存在しています。下のイラストでは、上の矢印が大腿骨、下の矢印が脛骨です。
身長と大腿骨長と脛骨長
身長が低くなれば大腿骨・脛骨は短く、身長が高くなれば大腿骨・脛骨は長くなるわけですが、ここで重要なのは、身長の高さによって大腿骨・脛骨の長さの比率も変化するということです。
この書籍の111ページには「骨による身長の推定」という項目があるのですが、大腿骨・脛骨の長さから身長を推定する計算式が記載されています。
・身長=脛骨長×3.3+47
この計算式を応用し、逆に身長から大腿骨長・脛骨長を推定する応用式は以下の通りです。
・脛骨長=(身長−47)÷3.3
そしてこの応用式を使い、各身長における大腿骨長・脛骨長を求めたものが下の表となります。
このように、身長が高くなれば、脛骨長に対する大腿骨長の比率が大きくなるわけです。
かなり極端ですが、下のイラストをご覧いただければわかりやすいかと思います。
上半身長と下半身長
そもそも「上半身長」「下半身長」という単語はないと思いますが、仮に大腿骨長+脛骨長を下半身長とした場合、身長からそれを引けば、残りの要素(上半身長)を求めることが可能となります(本当はかかとの厚さなども考慮する必要があるため、厳密には違います)。
上の表の一番右枠を見ていただきたいのですが、身長が高くなれば、下半身長に対する上半身長の比率が小さくなっているのがわかります。つまり、身長が高くなるほど「胴短長足」になるということです。
こちらもかなり極端ですが、わかりやすくするためのイラストを載せておきます。
大腿骨長・脛骨長・上半身長・下半身長が動作に及ぼす影響
上のイラストは、ごくごく平均的な身長の男性を表したものですが、重心線(赤矢印)は支持基底面内(緑矢印)に収まっており、特に問題なく動作を行うことが可能です(もっとも、本来はバーベルのみでなく当人の重心も考慮しなくてはいけないのですが、ここではわかりやすくするため割愛しています)。
しかし、身長が高くなれば、上のイラストと同じフォームで動作を行うことはできません。
なぜなら、脛骨長に対する大腿骨長が長くなるほか「胴短長足」となるため、重心線が支持基底面外へとはみ出てしまい、後方に転倒してしまうからです。
では、どのように対処をすれば良いかというと「上体の前傾角度を強める」という方法が考えられます。
対処法その1「上体の前傾角度を強める」
このようにすれば、重心線を支持基底面内に収めることが可能となり、後方への転倒を防止することができます。しかし、上体の前傾角度を強めるとその分腰が丸まりやすくなってしまい、傷害発生のリスクが高まるためあまりオススメはできません。
対処法その2「足関節の屈曲角度を強める」
次に考えられるものとしては「足関節の屈曲角度を強める」といった方法が挙げられます。このようにすれば、重心線を支持基底面内に収めることが可能となり、後方への転倒を防止することができるでしょう。
しかし、足関節の屈曲角度を強めるとかかとが浮いてしまう場合があり、支持基底面の縮小による安定性の低下や足関節への負担から、あまりオススメはできません。また、膝関節への負担も懸念されます。
もっとも、下のイラストのように、例えばプレートや木の板をかかとに敷くことでそれらを回避することは確かにできます。
しかし、ジムによってはプレートの枚数が少なかったり、木の板を常備していない場合もありますので、万能的とは言い難いでしょう。
対処法その3「足幅を広く取り足を外に向ける」
これが、私のオススメする対処法になります。大腿骨長そのものを短くすることは不可能ですが、このように足幅を広く取り足を外に向けることで、矢状面におけるモーメントアームを短くするわけです。
こうすれば、上体の前傾角度を強めるわけではないので「腰の丸まり」を防止できますし、足関節の屈曲角度を強めるわけではないので「かかとの浮き」や「膝関節への負担」を抑えることも可能です。
下の動画では実演してくれていますので、ぜひ一度ご覧ください。イラストで見るよりも数倍わかりやすいはずです。足幅を狭めた状態では非常に窮屈そうですが、足幅を広く取り足を外に向けた状態ではその窮屈さが解消できており、スムーズに動作を行えています。
まとめ
このような理由から「少なくとも身長の高い人においては、足幅を広く取り足を外に向けるべき」という考えを持っています。
今回の記事では、各身長における大腿骨長・脛骨長・上半身長・下半身長を表として記載しましたが、それらの数値はあくまでも推定であり、人種差や個人差があります。また、身長はそこまで高くない人でも「胴は短く脚が非常に長い」という人もいます。逆も然りです。
そのため「身長180㎝の人は、足幅は〇〇㎝足は〇〇°外に向けて」「身長195㎝の人は、足幅は△△㎝足は△△°外に向けて」というように、具体的な数値を提示することは残念ながらできません。
ただ、パーソナルトレーナーの後輩で一番身長の高かった190㎝台の男では、肩峰間隔の170%、具体的には親指から親指まで80㎝広げ、足を45°外に向けるとスムーズに動作を行えていました。
ちなみにですが「足幅を広く取り足を外に向けると、内転筋群に一番大きな負荷がかかるのではないか?」と思われる人もいるかもしれませんが、その心配はしなくて大丈夫です。
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、
・トレーニング経験のある男性9名が被験者。
・1RMの60%・75%の重量を担ぎスクワットを行ってもらう。
・スクワットは以下の3種類。
・肩幅75%のナロースクワット。
・肩幅100%のミディアムスクワット。
・肩幅140%のワイドスクワット。
・大腿四頭筋・大臀筋・長内転筋などいくつかの筋肉の活動を記録。
という実験を行った結果、足幅を変えたとしても、下肢の筋肉の活動は大きく変わらないことがわかっております。