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インクラインベンチプレスは大胸筋上部を鍛えるのに効果的か?

ベンチ台は、傾斜から「インクライン」「フラット」「デクライン」の3つに分類することができます。

・インクライン:頭の位置が高い。
・フラット:地面と平行。水平。
・デクライン:臀部の位置が高い。

どの傾斜であれど、ベンチプレスを行えば大胸筋をはじめ、三角筋・上腕三頭筋など上肢の筋群を鍛えることが可能です。

しかし、その中でもインクラインでのベンチプレス(インクラインベンチプレスインクラインプレスと呼ばれます)は、他の傾斜に比べ、大胸筋上部に大きな刺激を与えることができる、つまり「他の傾斜よりも、大胸筋上部を鍛えるのに効果的」とされています。

そのため「まずはオーソドックスなフラットでのベンチプレス(フラットベンチプレス)に取り組み、次にインクラインベンチプレスを取り入れる」という人は多いのではないでしょうか?

しかし、それは本当でしょうか?

最初に結論から申しますが、インクラインベンチプレスは、他の傾斜に比べ大胸筋上部に大きな刺激を与えることができない、つまり「他の傾斜よりも、大胸筋上部を鍛えるのに効果的とは言えない」というデータがいくつも存在します。

今回の記事は、ボディメイクを目的としている方向けの内容です。

論文を見てみる

詳しくは(こちらの日本語文献)を見ていただきたいのですが、

・フラット・デクライン・インクライン(60°)でベンチプレスを行う。
・大胸筋上部の筋活動を測定。
・重量は70%1RM。
・手幅は肩幅より拳一つ分外側。
・スミスマシンを使用。

という実験が行われた結果、

・フラットとデクラインは、インクラインよりも有意に大きな筋活動を記録。

というデータが得られました。

詳細は下のグラフを見ていただきたいのですが、巷に流れている情報とは全くの逆です。

出典:半田 徹. 代表的な筋力トレーニング種目における主働筋の筋電図学的分析. 人間科学研究 22(補遺号), 125-126, 2009-03-25

もっとも、この実験では傾斜角度を「60°」に設定しています。傾斜角度は、通常「30〜45°」に設定されるため、これだといささか急な気がしてなりません。また「スミスマシンを使用」という点にも注意が必要です。

インクラインはデクラインよりも有意に大きな筋活動を記録したが……

詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、

・デクライン・フラット・インクライン(40°)でベンチプレスとショルダープレスを行う。
・大胸筋上部の筋活動を測定。
・重量は80%1RM。
・手幅は肩峰間隔100%のナローと肩峰間隔200%のワイド。

という実験が行われた結果、

・フラットは、ショルダープレスよりも有意に大きな筋活動を記録。
・インクラインは、デクラインとショルダープレスよりも有意に大きな筋活動を記録。
フラットとインクラインの間に有意差は見られない

というデータが得られました。

出典: Chris Barnett, et al. Effects of Variations of the Bench Press Exercise on the EMG Activity of Five Shoulder Muscles. journal of strength and conditioning research,1995,9(4),222-227.

上のグラフでは、インクライン(Incline)がフラット(Horizontal)よりもわずかに大きな値を示していますが、この差は微々たるものであり「インクラインは、フラットよりも大胸筋上部の大きな筋活動をもたらさない」と結論づけられています。

傾斜角度を2つ用意した場合はどうか?

詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、

・デクライン・フラット・インクライン(30°と45°)でベンチプレスを行う。
・大胸筋上部の筋活動を測定。
・重量は65%1RM。
・手幅は肩峰間隔の150%。

という実験が行われた結果、

エキセントリック(バーベルの下降)局面
フラットは、インクライン(45°)よりも大きな筋活動を記録(全ての区間)
コンセントリック(バーベルの上昇)局面
・インクライン(30°と45°)は、デクラインとフラットよりも大きな筋活動を記録(26〜50%区間のみ)。
デクラインとフラット、そしてインクライン(30°と45°)の間に有意差は見られない(26〜50%以外の区間)

というデータが得られました。

この実験では、エキセントリック及びコンセントリック局面、さらには、それぞれの局面を4分割し大胸筋上部の筋活動を測定しています。

しかし、インクライン(30°と45°)がデクラインとフラットよりも大きな筋活動を記録したのは「コンセントリック局面の26〜50%区間のみ」となっており、エキセントリック局面においては、全ての区間でフラットがインクライン(45°)よりも大きな筋活動を記録しています。

大胸筋上部そして下部を活動させるためには、フラットを用いることを支持する」とのことです。

The results of this study support the use of a horizontal bench to achieve muscular activation of both the upper and lower heads of the pectoralis.

傾斜角度を弱めた場合はどうか?

詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、

・フラット・インクライン(25°)・デクラインでベンチプレスを行う。
・大胸筋上部の筋活動を測定。
・重量は6RM。
・手幅は81㎝。

という実験が行われた結果、

・フラットとインクライン、そしてデクラインの間に有意差は見られない

というデータが得られました。

表を見る限り、フラットとデクライン(Declined)がインクラインよりもわずかに大きな値を示していますが、この差は微々たるものであり「大胸筋(中部と上部)において、インクラインやデクラインと同等の筋活動がフラットで観察された」と記載されています。

Similar levels of activity in the PM (sternocostal and clavicular parts) were observed in the flat bench compared with the inclined and declined bench positions.

まとめ

このように、インクラインベンチプレスは、他の傾斜に比べ大胸筋上部に大きな刺激を与えることができない、つまり「他の傾斜よりも、大胸筋上部を鍛えるのに効果的とは言えない」というデータがいくつも存在します。

そのため、フラットベンチプレスに取り組んでいるのであれば、大胸筋上部を鍛える手段として、インクラインベンチプレスを取り入れる必要はあまりないように感じます。

次回は「インクラインベンチプレスよりも、大胸筋上部を鍛えるのに効果的」とされている(ワイドのリバースグリップベンチプレス)について書き綴っていきます。興味のある方は、リンクよりお入りください。

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