(オススメ筋トレ種目ベンチプレスの効果・やり方・呼吸を解説)で少し触れましたが、競技力向上において、
・大胸筋を鍛える時間は無駄。
・大胸筋を鍛えるとパフォーマンスが低下する。
というようなセリフを、稀にですが耳にする時があります。
しかし、これらは本当なのでしょうか?
今回の記事は「アスリートにおける大胸筋の重要性」について書き綴っていきますが、最初に結論から申しますと、そんなことはありません。様々なスポーツ・様々な動作において、大胸筋は重要な筋肉であることが確認されています。
そのため、基本的にはベンチプレスなどでしっかりと鍛えていただくよう指導しています。
大胸筋とは?
まずは、大胸筋そのものについての確認です。
大胸筋は、文字通り胸にある大きな筋肉で、肩関節の内転・水平屈曲・内旋に作用します。つまり「外に開いた腕を内に閉める」という運動で働く筋肉です。
論文を見てみる
Shoulder muscle recruitment patterns and related biomechanics during upper extremity sports.
これには、様々なスポーツ・様々な動作における、大胸筋の活動が記載されています。
ゴルフのスイング
・ゴルファーが対象。
・スイングを行ってもらう。
・スイングは5つの局面に分割。
・筋肉の活動を調べる。
・トレイルアーム側とリードアーム側に分けて調べる。
(※トレイルアームは右利きゴルファーの右腕、リードアームは右利きゴルファーの左腕)
という実験の結果は以下の通りです。
表の緑枠をご覧いただきたいのですが「クラブが水平〜インパクト」及び「インパクト〜クラブが水平」局面で、トレイルアーム側・リードアーム側ともに、大胸筋は大きな活動を記録しているのが確認できます。
テニスのサーブとフォアハンド
・テニスプレイヤーが対象。
・サーブとフォアハンドを行ってもらう。
・サーブは4つの局面に分割。
・フォアハンドは3つの局面に分割。
・筋肉の活動を調べる。
という実験の結果は以下の通りです。
表の緑枠をご覧いただきたいのですが、サーブの「肩最大外転位〜インパクト」及び、フォアハンドの「前足への体重移動〜インパクト」局面で、大胸筋は大きな活動を記録しているのが確認できます。
アメリカンフットボールのオーバーヘッドスロー
・アメリカンフットボーラーが対象。
・オーバーヘッドスローを行ってもらう。
・オーバーヘッドスローは4つの局面に分割。
・筋肉の活動を調べる。
という実験の結果は以下の通りです。
出典:Kelly BT, Backus SI, Warren RF, Williams RJ. Electromyographic analysis and phase definition of the overhead football throw. Am J Sports Med. 2002
表の緑枠をご覧いただきたいのですが「acceleration」及び「follow-through」局面で、大胸筋は大きな活動を記録しているのが確認できます。
まとめ
このように、ゴルフのスイング・テニスのサーブとボレー・アメリカンフットボールのオーバーヘッドスローなど、様々なスポーツ・様々な動作において、つまり「外に開いた腕を内に閉める」運動のあるスポーツ・動作において、大胸筋は大きく活動することが確認できました。
「大きく活動する」は「その動作への貢献度が大きい」と捉えることができるため、基本的にはベンチプレスなどでしっかりと鍛えていただくよう指導しているわけです。
例えば、一番上に紹介したゴルフのスイングでは、
The subscapularis, pectoralis major, latissimus dorsi and serratus anterior of the trail arm demonstrated high activity during the acceleration phase to continue adducting and internally rotating the trail arm. These muscles may be the most important ‘power’ muscles of the upper extremity to help accelerate the arm during the acceleration phase of the downswing.
「トレイルアーム側の肩甲下筋・大胸筋・広背筋・前鋸筋は加速局面で大きく活動し、トレイルアームを内転、そして内旋させた。これらは、ダウンスイング中の加速局面において、腕を加速させるパワーを生み出すに最も重要な筋肉である可能性がある」と考察されています。
ただ、一つ注意していただきたいのは「しっかりと鍛えていただく」=「筋肥大を起こす」という意味ではありません。
総合格闘技やアームレスリングなど、体重別に階級のある競技では、筋肥大を起こすことで体重が増加し、減量がかなり辛くなってしまう場合もあります。そんな時は極力筋肥大を起こさないよう、しかし筋力は向上させるようなメニューを組んでいます。