前回(【アスリート】競技力向上 実践編⑥ セット間休憩時間とトレーニング時間の調整)のまとめ
・トレーニング時間の調整は、基本的にはセット数で。しかし、状況に応じてはエクササイズ数やセット間休憩時間でも可。
今回の記事は「エクササイズの実施順序」と「動作速度」について書き綴っていきます。最初に結論から申しますと、エクササイズの実施順序においては、
・爆発的エクササイズは、一般的エクササイズよりも前に実施する。
動作速度においては、
という指標を設けています。
エクササイズの実施順序が筋力に及ぼす影響
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、
・30歳前後の男性31人が対象(トレーニングは行っていない)。
・彼らをいくつかのグループに分ける。
・1つ目のグループは大筋群→小筋群トレーニングを行うグループ(以下大小)。
・2つ目のグループは小筋群→大筋群トレーニングを行うグループ(以下小大)。
・大小はベンチプレス→ラットプルダウン→トライセプスエクステンション→アームカールの順。
・小大はアームカール→トライセプスエクステンション→ラットプルダウン→ベンチプレスの順。
・3〜15RMの負荷を用い、週2回12週間継続。
・1RM(筋力)の変化を調べる。
という研究が行われた結果、
・小大:アームカール・トライセプスエクステンション・ラットプルダウンの1RMは有意に増加。ベンチプレスの1RMは有意な増加が見られなかった。
というデータが得られました。
つまり「各グループで1RMの有意な増加が見られなかったのは、最後に実施したエクササイズ」ということになります。これは、最後に実施したことによって、肉体的・精神的な疲労が影響したためでしょう。
そして、研究者たちは「その人にとって重要度の高いエクササイズを初めに実施するべき」と結論づけています。大胸筋の筋力が何よりも欲しいのであれば、大胸筋を鍛えるエクササイズから実施し、上腕二頭筋の筋力が何よりも欲しいのであれば、上腕二頭筋を鍛えるエクササイズから実施する、ということです。
しかしながら、各グループで最後に実施したエクササイズにおける1RMの変化の詳細を見てみますと、
・小大ベンチプレス:70.3(±13.7)→78.0(±14.9)kg
となっており「一般的には、十分に増加していると判断されるレベルだろう」という印象があります。
有意差はないかもしれませんが、増加の傾向は見られるので、12週間ではなく13・14・15・16週間…と少し期間を伸ばせば、有意差も確認されていたはずです。
そのため「最後に実施したエクササイズには意味がない」ではなく「効果の大きさは、先に実施したエクササイズ>後に実施したエクササイズとなる」このように捉えておいた方が良いと考えています。
一般的エクササイズの実施順序
先ほど「効果の大きさは、先に実施したエクササイズ>後に実施したエクササイズとなる」と記載しましたが、これを考慮するならば、その人の状況(どんなスポーツを行っているのか?どこの筋力が必要になるのか?…etc.)をしっかりと把握し、その人にとって重要度の高いエクササイズから順に実施するべきです。
つまり「この方の行っているスポーツは、全身の筋力が満遍なく必要になる。しかし、上半身と下半身の筋力バランスはお世辞にも良いとは言えない。下半身の筋力はなかなかだが、上半身の筋力は中学生レベルだ」というお客様に対しては、ベンチプレスやラットプルダウンから実施するということになります。
しかし、このように「効果の大きさ」だけを考慮し、エクササイズの実施順序を決める流れは、正直オススメできません。では、なぜオススメできないのかというと「安全性が乏しくなる可能性がある」というのがその理由です。
これは、あるパーソナルトレーナーの話なのですが、その人は「効果の大きさ」だけを考慮し、エクササイズの実施順序を決めて指導をしていました。
もう何年も前のことなので若干記憶が薄れていますが、たしか「ベンチプレス→ラットプルダウン→オーバーヘッドプレス→ベントオーバーロウ→スクワット」という順序だったはずです。
私は、そのパーソナルトレーナーの指導風景を横目で見ていたのですが、案の定最後のスクワットでは、大きくふらついたり、腰が丸まったりしていました。肉体的・精神的な疲労が影響したためでしょう。
事実、指導を受けていたお客様はそのパーソナルトレーナーに「最後にスクワットを行うと、疲労が溜まっているせいでフォームが大きく乱れますね」と話していたほどです。
そのため、エクササイズの実施順序を決める際には「その人にとって重要度の高いエクササイズから実施する」=「効果の大きさ」という点ではなく(もちろん重要ではありますが)、それ以上に「安全性」を考慮するようにしています。
では、具体的にはどのような考慮をしているのかというと、
・より高重量を扱えるエクササイズを優先する。
・バーベルの下に身体が位置する(潰れることがある)エクササイズを優先する。
の3つです。
つまり「動作を行うにあたり高い集中力が要求され、怪我のリスクも比較的高めと思われるエクササイズから先に実施する」ということです。
よって、スクワットとルーマニアンデッドリフトでは、スクワットから実施することになります。なぜなら「フォーム習得の難度」及び「扱える重量」において両エクササイズに大きな差はありませんが、スクワットではバーベルの下に身体が位置するためです。
また、スクワットとベンチプレスでも、スクワットから実施することになります。なぜなら「身体の位置」は両エクササイズともバーベルの下ですが「フォーム習得の難度」はスクワットの方がやや高いと思われ「扱える重量」はスクワットに軍配が上がるためです。
私は、アスリートへのトレーニングとして、しばしば基本5種(スクワット・ルーマニアンデッドリフト・ベンチプレス・ラットプルダウン・レッグレイズ)を指導していますが、これら基本5種の実施順序は、
1. スクワット
2. ルーマニアンデッドリフト
3. ベンチプレス
4. ラットプルダウン
5. レッグレイズ
もしくは、
1. スクワット
2. ベンチプレス
3. ルーマニアンデッドリフト
4. ラットプルダウン
5. レッグレイズ
となります。
ただ、1つ注意していただきたいことがあるのですが、これはあくまでも指標に過ぎず、決して「絶対」ではありません。
トレーニングジムによっては、他会員とのバッティングで「スクワットラックをすぐに使えない」ということもあるでしょう。そのような時は、ベンチプレスやラットプルダウンから実施する、というのも1つの手であるとは思います。
爆破的エクササイズとの兼ね合い
一般的エクササイズの実施順序については上記の通りですが、爆発的エクササイズ(クリーンやスナッチなど)を取り入れる場合はどうすれば良いのかというと、これも先述した3つの考慮を踏まえるようにしています。
よって、実施順序は爆発的エクササイズ→一般的エクササイズとなります。「扱える重量」はスクワット・ルーマニアンデッドリフト、人によってはベンチプレスに軍配が上がるものの「フォーム習得の難度」は圧倒的に爆発的エクササイズの方が高く、クリーンやスナッチにおける「身体の位置」はバーベルの下であるためです。
また、爆発的エクササイズを優先して実施する理由はもう1つあります。
そもそも、爆発的エクササイズ(最高速度、もしくは最高に近い速度での力発揮、あるいは大きな加速を伴うエクササイズ)を取り入れるのは「全体的なRFDをより向上させることができる」というデータが存在するからです(こちらの記事を参照)。
とするのであれば、爆発的エクササイズは優先して実施するべきしょう。一般的エクササイズの後に回してしまうと、肉体的・精神的な疲労が原因して「最高速度、もしくは最高に近い速度での力発揮、あるいは大きな加速を伴う」動作ができなくなってしまいます。
動作速度について
次は、エクササイズを実施する際の動作速度について説明をしていきます。
まず、コンセントリック(挙上)局面においては「できる限り素早く」という指標を設けています。スクワットを例に取ると「素早く立ち上がる」ベンチプレスを例に取ると「素早くバーベルを持ち上げる」ということです。
では、なぜこのような指標を設けているのかというと、このブログでも幾度か記載してきたRFDがその理由です。
また、詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、ここではトレーニング経験者を対象に、ベンチプレスで「できる限り素早く挙上を行う(FPS)」グループと「素早く挙上を行わない(SPS)」グループに分け、筋力及び筋の収縮速度の変化率を調べています。
なお、挙上局面に費やした時間の詳細は以下の通りです。
出展:Padulo J, et al. Effect of different pushing speeds on bench press. Int J Sports Med. 2012 May;33(5):376-80.
その結果、FPSグループで筋力及び筋の収縮速度の有意な増加が確認されました。
出展:Padulo J, et al. Effect of different pushing speeds on bench press. Int J Sports Med. 2012 May;33(5):376-80.
このような理由からも「できる限り素早く」という指標を設けているわけです。
次は、エキセントリック(下降)局面に関してですが、下降局面においては「比較的ゆっくり」という指標を設けています。スクワットを例に取ると「ゆっくりしゃがむ」ベンチプレスを例に取ると「ゆっくりバーベルを下ろす」ということです。
では、なぜこのような指標を設けているのかというと、大きな理由としては「安全性」が挙げられます。
例えば、ベンチプレスで「ゆっくりバーベルを下ろす」ではなく「勢いよくバーベルを下ろす」を行ったとしましょう。「勢いよくバーベルを下ろす」ということは、つまるところ「下降局面で力を抜く」とイコールです(もしくは、逆方向に力をいれる)。
そしてその結果、胸骨に大きな衝撃を与えることになります。
少なくとも私の周りでは、勢いよくバーベルを下ろしたことで「胸骨を骨折した」という方はいませんが「胸周りを痛めた」という方はちらほら見られました。
このような理由から「比較的ゆっくり」を指標としているわけです(安全性以外にも「エキセントリック筋力の増加が見込めない」という理由もあります)。
※なお「比較的ゆっくり」は非常に抽象的な表現であるため、実際には「2〜3秒」と指導しています。
次回に続く。
まとめ
・爆発的エクササイズは、一般的エクササイズよりも前に実施する。
・挙上局面はできる限り素早く、下降局面は比較的ゆっくり(2〜3秒)行う。
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