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【アスリート】競技力向上 実践編③ RFDと爆発的エクササイズについて

前回(【アスリート】競技力向上 実践編② 動作類似エクササイズは効果的か?)のまとめ

・ゴルフにおける「ケーブルスイング」バレーにおける「ダンベルスイング」など、動作類似エクササイズを指導することはまずない。
・「お腹を凹ませるドローイン」「バランスボール上でのスクワット」など、巷で流行りのオシャレな体幹トレーニングを指導することもまずない。

前記事では「まず指導することのないエクササイズ」について書き綴りましたが、これについてお客様に説明をしていると「じゃあ、クリーンやスナッチなど、ギュン!と勢いよくバーベルを持ち上げるエクササイズを取り入れることはありますか?」との質問を受けることがあります。

最初に結論から申しますが、このような質問を受けた時は「クリーンやスナッチなど、ギュン!と勢いよくバーベルを持ち上げるエクササイズ(最高速度、もしくは最高に近い速度での力発揮、あるいは大きな加速を伴うエクササイズ=爆発的エクササイズ)を取り入れることはありますしかし、取り入れる場合は、お客様のトレーニングスキルや状況を吟味してからになります」とお答えしています。

本題に入る前に RFD(Rate of force development)について

ここに、赤色と青色の車があったとします。2台は、車体重量・車体形状・最高時速等、基本的に全く同じです。

しかし、1つだけ異なるところがあります。それが「加速性能」です。赤色の車は、最高時速に到達するまでわずか20秒しか必要としませんが、青色の車は40秒も必要とします。

では、この2台がレースに出場することになった時、どちらの方が優秀なタイムを叩き出すことができるでしょうか?これは、赤色の車になります。なぜなら、加速性能が良いため、早い段階で高速度に到達することができるからです。

そして、この加速性能は私たち人間にも確認されています。

出典:G. Gregory Haff,et al. Training Principles for Power. National Strength and Conditioning Association. Volume34, Number6, December 2012.

上のグラフ縦軸Forceは「筋力」を、横軸Timeは「力を入れ始めてからの経過時間」を表しているのですが、Peak Force「最大筋力」は、おおよそ500ms(0.5秒)を示しているのが確認できます。

つまり、このグラフからは何が言えるのかというと「力を入れ始めてから、おおよそ0.5秒間かけて最大筋力に到達する」ということです。

ある時間間隔における筋力の変化量はRFD(Rate of force development)と呼ばれており、アスリートにおいては、このRFDを向上させることが重要になります(日本語では「筋力の立ち上がり率」や「筋力発揮率」などと訳されます)。

簡素なグラフで申し訳ありませんが、下のように左にシフトさせることが重要になるわけです。

では、なぜRFDを向上させることが、アスリートにおいて重要になるのでしょうか?

それは、RFDを向上させることによって、早い段階で大きな筋力を発揮することが可能となり速く筋肉を収縮させる(関節を動かす)ことが可能となりパワーの増加に繋がりジャンプ力・スプリント力・方向転換能力といった身体能力を向上させることができるためです

詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、パワーはジャンプ力・スプリント力・方向転換能力と相関が確認されており、また「RFDとジャンプ力・スプリント力には関連が見られた」との報告も存在します(詳しくはこちらの英語文献こちらの英語文献を参照)。

このような理由から「アスリートにおいては、このRFDを向上させることが重要になります」と先述したわけです。

では、一体どのようなトレーニングを行えば、RFDを向上させることができるのでしょうか?

爆発的/バリスティックトレーニング

Untrained:非トレーニング者 Heavy Resistance Training:高重量トレーニンググループ Explosive or Ballistic Strength Training:爆発的/バリスティックトレーニンググループ

出典:G. Gregory Haff,et al. Training Principles for Power. National Strength and Conditioning Association. Volume34, Number6, December 2012.

上のグラフは、異なるトレーニングプログラムにおけるRFDの変化を表したものですが、高重量トレーニングを見てみますと、最大筋力及びRFDが向上しているのが確認できます。

一方、爆発的/バリスティックトレーニングを見てみますと、最大筋力はそこまでですが、全体的なRFDは高重量トレーニングよりも向上しているのがわかります。

そして、この爆発的/バリスティックトレーニングを代表するエクササイズに、クリーンやスナッチがあるわけです。

「クリーンやスナッチなど、ギュン!と勢いよくバーベルを持ち上げるエクササイズ(最高速度、もしくは最高に近い速度での力発揮、あるいは大きな加速を伴うエクササイズ=爆発的エクササイズ)を取り入れることはあります」と最初に書き綴りましたが、その理由は「全体的なRFDをより向上させることができる」ためです。

クリーンやスナッチのフォーム習得の難度は高い

このように、クリーンやスナッチは全体的なRFDをより向上させることができるため、取り入れるに越したことはないでしょう。

しかしながら、クリーンやスナッチのフォーム習得の難度は高くなっています。動作が複雑だからです(詳しくは下の写真を参照)。

事実、動作には「ファーストプル」「スクープ」「セカンドプル」……といった具合に区分けがなされており「ダブルニーベント」「トリプルエクステンション」などのテクニックが要求されます。

日本ウエイトリフティング協会 ウエイトリフティング指導教本2015 クリーン

そのため、クリーンやスナッチを取り入れる場合は、スクワットなどの一般的エクササイズにおける適切なフォームを完璧に習得できていることが絶対条件になります。

このような理由から「しかし、取り入れる場合は、お客様のトレーニングスキルを吟味してからになります」と先述したわけです。

また、スクワットなどの一般的エクササイズにおける適切なフォームを完璧に習得できていたとしても「試合まで残り2ヶ月を切っている」といった場合は、取り入れるべきではないでしょう。

先に記載した通り、クリーンやスナッチのフォーム習得の難度は高くなっています。

ゆえに「あ〜、2ヶ月足らずでは、クリーンやスナッチの適切なフォームを習得することができなかったな。クリーンやスナッチでのトレーニング・・・・・・ではなく、フォーム練習・・・・・・で終わってしまった。これじゃあRFDの向上は望めない。それどころか、スクワットなどの一般的エクササイズを行う時間をその分減らしてしまったため、筋力が微量ながら低下した気がする。さらに、フォーム練習とは言えどいつもとは違う新しいエクササイズを取り入れたことで疲労がたまり、コンディショニングの調整や技術練習に悪影響が及んだ。こうなるんだったら、今までのエクササイズを愚直に継続していればよかった。そうしておけば余計なストレスを抱えることもなく、肉体的にも精神的にも万全な状態で試合に臨めたのに」

のようなことが起こるとも考えられます。

このような理由から「しかし、取り入れる場合は、お客様の状況を吟味してからになります」と先述したわけです。

次回に続く。

まとめ

・「全体的なRFDをより向上させることができる」との理由から、クリーンやスナッチなど爆発的エクササイズを取り入れることはある。
・しかし、クリーンやスナッチのフォーム習得の難度は高くなっているため、取り入れる場合はトレーニングスキルや状況を吟味してからになる。

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