前回(【アスリート】競技力向上 理論編② トレーニングは「身体能力を効果的に向上させる手段」である)のまとめ
・トレーニングの恩恵は、バレー・サッカー・ゴルフ・バスケット・野球など、様々なスポーツで享受することができる。
トレーニングは「がむしゃらに行えば良い」というわけではない
トレーニングは「身体能力を効果的に向上させる手段」であるがゆえ、競技力を向上させたい方には、トレーニングを行うことをオススメしています。
しかし、ここで気をつけていただきたいことがあります。それは、トレーニングは「がむしゃらに行えば良い」というわけではないということです。
つまり、トレーニングにはその人の目的や状況に合った「適切なやり方」があるということになります。
トレーニングを代表するエクササイズに「スクワット」があります。このスクワットは、股関節や膝関節を屈曲・伸展させるため、太ももの前・後ろ、そしてお尻の筋肉に刺激を与えることが可能です。
詳しくは(こちらの日本語文献)を見ていただきたいのですが、ここでは足底の荷重位置を変化させた場合、筋肉の活動にどのような影響が及ぶかを調べています。
その結果、太ももの前の筋肉は後方荷重(かかと寄りの荷重)で、太ももの後ろ・お尻の筋肉は前方荷重(つま先寄りの荷重)で強く働くとのデータが得られました。
また、詳しくは(こちらの英語文献)も見ていただきたいのですが、ここでは扱う重量と回数を変化させた場合、筋力及び筋肥大にどのような影響が及ぶかを調べています。
その結果、筋力においては高重量低回数(90%1RM前後の重量で2〜4回)グループで、筋肥大においては中重量中回数(80%1RM前後の重量で8〜12回)グループでより大きな増加が確認されました。
つまり、同じスクワットであったとしても、荷重位置(フォーム)や、扱う重量や回数(プログラム)等が変化すれば、得られる効果も変わってくるということです。
そのため、トレーニングを行われる場合は、できることであれば専門家(ストレングス&コンディショニングコーチや、トレーニング指導者、という肩書きで活動されている方)に指導を依頼されることをオススメしています。
もっとも「今までのトレーニング経験や感覚から、専門家に指導を依頼しなくてもそれくらいわかるよ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、経験や感覚は案外あてにならない時もあります。
例えば、スクワットではスタンスをワイドにする(足幅を広げる)ことで、太もも内側の筋肉の活動が大きくなると言われていますが、スタンスをワイドにしたとしても「太もも内側の筋肉の活動は大きくならなかった」というデータがいくつも存在します(こちらの英語文献やこちらの英語文献を参照)。
また、マラソンなど、いわゆる「持久力」が重要になる競技(持久系競技)においては「軽い重量で何十回もひたすら反復するスクワット(具体的には20レップとか30レップとか)」が推奨されることが多々ありますが、むしろ「重い重量で数回(1〜5回)の方が効果的」というデータが存在します(こちらの英語文献を参照)。
→(重い重量を扱うことで筋力がより増加し、動員される運動単位数≒筋線維数が減少し、ランニングエコノミーが向上する)
これ、少し意外な結果ではありませんか?
トレーニングは、確かに「身体能力を効果的に向上させる手段」です。が、この「トレーニングは」の前には「適切な」という言葉がつきます。そのため、トレーニングを行われる場合は、専門家に指導を依頼されることをオススメしているわけです。
もっとも「絶対に指導を依頼してください」や「自分一人で行ってはいけません」などと言っているわけでは全くありません。あくまでも「できることであれば」の話です。
トレーニングを行えば「すぐさま競技力が向上する」というわけではない
身体能力は競技力を決定する要素であり、その身体能力はトレーニングを行うことで効果的に向上します。しかし、トレーニングを行い身体能力が向上したとしても、それがすぐさま競技力に結びつくとは限りません。
例えば、ここにバレーを行っている方Aさんがいたとします。Aさんは、アウトラインギリギリにスパイクを打つことができます。
そんなAさんがトレーニングを行い「ジャンプ力」を高めたとします。ジャンプ力を高めることは、バレーにとってはもちろん重要なことです。ジャンプ力が高まれば、スパイクの際相手にブロックされにくくなったり、相手のスパイクをしっかりブロックすることができるでしょう。
しかし、今までと同じ打ち方では、まず間違いなくアウトラインを超えてしまいます。なぜなら、打点が高くなることで、ボールの飛距離が伸びるためです。
今度は「腕の振り力」を高めたとします。腕の振り力を高めることは、バレーにとってはもちろん重要なことです。腕の振り力が高まれば、より威力のあるスパイクを打つことができるでしょう。
しかし、今までと同じ打ち方では、まず間違いなくアウトラインを超えてしまいます。なぜなら、威力が増したことで、ボールの飛距離が伸びるためです。
このように、トレーニングを行い身体能力が向上したとしても、それがすぐさま競技力に結びつくとは限らないのです(むしろ、場合によっては一時的ではありますが「競技力が低下した」と感じる場合もあるかもしれません)。
つまり、何を言いたいのかというと、
ではなく、
という段階があるということです。
そのため、トレーニングを行い→身体能力が向上し→競技力が向上するまでには、それなりの期間が必要になります。
では、どれくらいの期間が必要になるのかというと、これは一概に「〇〇日です」と断言することはできません。
年齢やトレーニング経験の有無・トレーニング頻度・運動センス(運動神経の良さ)などなど、様々な要因が関係してくるためです。
しかし、今までの経験からお話しするのであれば、早い人であれば2〜3ヶ月、遅い人でも1年、平均すると半年ほどという印象を持っています。
次回に続く。
まとめ
・1つ目は、トレーニングは「がむしゃらに行えば良い」というわけではないということ。
・つまり、トレーニングにはその人の目的や状況に合った「適切なやり方」があるということ。
・そのため、できることであれば専門家(ストレングス&コンディショニングコーチや、トレーニング指導者、という肩書きで活動されている方)に指導を依頼されることをオススメする。
・2つ目は、トレーニングを行い身体能力が向上したとしても、それがすぐさま競技力に結びつくとは限らないということ。
・トレーニングを行い→身体能力が向上し→競技力が向上するまでには、それなりの期間(早い人であれば2〜3ヶ月、遅い人でも1年、平均すると大体半年ほど)が必要になる。
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