前回(【アスリート】競技力向上 理論編① アスリートにおいてなぜトレーニングは重要なのか?)のまとめ
・代表的な要素としては「技術」「メンタル」「戦術」など。
・しかし、忘れてはいけない要素がもう1つある。
・それが「身体能力」である。
・身体能力の代表例としては「筋力」「筋の収縮速度」「パワー」などが挙げられる。
・これらを噛み砕き、さらに具体的な例を出すのであれば「ジャンプ力」「スプリント力」「方向転換能力」などが、身体能力として挙げられる。
・身体能力は競技力を決定する要素であるがゆえ、身体能力を向上させれば、結果として競技力の向上が期待できる。
・「運動経験のない方」や「その競技経験のない方」においては「その競技を行うだけ」で身体能力の向上が期待できる。
・しかし、ある程度「運動経験がある方」や「その競技経験がある方」においては「その競技を行うだけ」では身体能力の向上が期待できない場合が出てくる。
・この状況を打破できるのが「トレーニング」である。
・つまり、トレーニングは「身体能力を効果的に向上させる手段」である。
本当にトレーニングは「身体能力を効果的に向上させる手段」であるのか?
つまり、トレーニングは「身体能力を効果的に向上させる手段」である。
と記載をしましたが、これは本当なのでしょうか?
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、
・サッカーを行っている17歳前後の男性が対象。
・彼らを2つのグループに分ける。
・1つ目はトレーニングを行わないグループ。
・2つ目はトレーニングを行うグループ。
・つまり「その競技を行うだけ」グループと「その競技にプラスしトレーニングを行う」グループに分ける。
・トレーニング内容はスクワットを週2回の頻度で2ヶ月継続。
・ジャンプ力がどのように変化したかを調べる。
という研究が行われました。
その結果は以下の通りです。
・トレーニングを行うグループ:9.84%増加
仮に、ジャンプ力が「30㎝」の方がいたとして、このデータをそのまま当てはめると、
・トレーニングを行うグループ:30㎝→33.0㎝
となり、約2.5㎝の差が生じることになります。
2.5㎝の差をどう捉えるかは人それぞれでしょうが、少なくとも私は「かなり大きな差」と認識しております。スポーツでは「あと数㎝高く跳べていたら、勝敗はどうなっていたかわからなかった」という場面があるからです。
また、この研究はあくまでも「2ヶ月」という期間においての話です。もちろん、このままのペースでずっとジャンプ力が増加するとは思えませんが、それでも3ヶ月、半年、1年、3年と期間が長くなれば、将来的には10㎝以上の差が出てくることも考えられます。
なお、ここで紹介した研究は「17歳前後の男性」を対象にしていますが「53〜69歳の女性」においても、トレーニングを行うことでジャンプ力がしっかりと増加した、というデータが存在します(詳しくはこちらの英語文献を参照)。
もっとも「トレーニングを行うことで、ジャンプ力がより増加するのはわかったけど、身体能力は何もジャンプ力だけではない。スプリント力や、方向転換能力もある。それについてはどうなの?」という疑問が生まれるかもしれません。
しかしながら「トレーニングを行うことで、ジャンプ力以外の身体能力もより増加する」という報告もあります。
といいますか、詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、ジャンプ力はスプリント力、そして方向転換能力と相関が確認されています。
かなり簡潔な説明ですが、相関とは「2つのものが密接にかかわり合っている」という意味があり、つまるところ「ジャンプ力が増加すれば、スプリント力、そして方向転換能力も伴って増加する」ということです。
そして、これらの身体能力を決定する要因に「筋力」「筋の収縮速度」「パワー」などがあるとされています。
詳しくは、
・The Importance of Muscular Strength in Athletic Performance
・Rate of force development: reliability, improvements and influence on performance. A review
・Training Principles for Power
をご覧ください。
そのため、確かに先ほど紹介した17歳前後の男性が対象の研究では、ジャンプ力についてしか触れていませんが「トレーニングを行うことで、ジャンプ力以外の身体能力もより向上させることができたであろう」と考察することが可能です。
ちなみにですが、話をスムーズに進めるため敢えて触れませんでしたが、先ほど紹介した17歳前後の男性が対象の研究では、実はジャンプ力以外の身体能力の変化も調べています。そのデータは以下の通りです。
・トレーニングを行わないグループ:3.7%増加
・トレーニングを行うグループ:35.23%増加
スプリント力(最高速度)
・トレーニングを行わないグループ:5.35%増加
・トレーニングを行うグループ:11.86%増加
このようなデータがあるため、トレーニングは「身体能力を効果的に向上させる手段である」と先述したわけです。そして、競技力を向上させたい方には、トレーニングを行うことをオススメしております。
どんなスポーツでトレーニングの恩恵は享受できるのか?
「競技力を向上させたい方には、トレーニングを行うことをオススメしております」と記載しました。が、スポーツには様々な種目があります。バレーやサッカーのように、ジャンプしたり、スプリントしたり、方向転換したりしないものも存在します。
その代表例が、ゴルフです。
そのため、ゴルフにおいては「トレーニングを行う必要はないのではないか。トレーニングの恩恵を享受することができないのではないか」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、そのようなことはありません。ジャンプしたり、スプリントしたり、方向転換したりしないゴルフでも、トレーニングの恩恵を享受することは十分に可能です。
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、ゴルフにおける飛距離はスイングスピードと、スイングスピードは筋力と相関することが確認されています。
つまり、トレーニングを行い筋力を増加させれば→スイングスピードが増加し→飛距離の伸びが期待できる、ということです。
飛距離が伸びることは良いことでしょうか?もちろん、良いことでしょう。飛距離が伸びればより少ない打数でコースを周回することができ、その結果良いスコアに繋がるはずです。
なお、詳しくは(こちらの英語文献)を見ていてだきたいのですが、
・ゴルファーが対象。
・彼らを2つのグループに分ける。
・1つ目はトレーニングを行わないグループ。
・2つ目はトレーニングを行うグループ。
・つまり「その競技を行うだけ」グループと「その競技にプラスしトレーニングを行う」グループに分ける。
・トレーニング内容はスクワットやベンチプレスなどを週2回の頻度で8週間継続。
・スイングスピードと飛距離がどのように変化したかを調べる。
という研究が行われました。
その結果は以下の通りです。
スイングスピード(km/h):172.3 ± 17.1 → 173 ± 18.7(変化なし)
飛距離(m):220.8 ± 19 → 219.3 ± 30.7(変化なし)
・トレーニングを行うグループ
スイングスピード(km/h):179.8 ± 9.1 → 182.6 ± 6.2(1.5%増加)
飛距離(m):225.6 ± 16 → 235.7 ± 11.4(4.3%増加)
また、マラソンにおいても「トレーニングを行う必要はないのではないか。トレーニングの恩恵を享受することができないのではないか」と言われています。
マラソンは走りはしますが、スプリント(ダッシュ)というよりかは「ある一定の速度で走り続ける」持久系競技ですし、ジャンプしたり、方向転換したりすることはないためです。
しかし、ゴルフ同様こちらもそのようなことはありません。
詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、トレーニングを行うことによって、ランニングエコノミーや疲労するまでの時間が有意に増加した、というデータが得られております。
※ランニングエコノミー:走の経済性と訳され、 ある走速度に対してより少ないエネルギーで走れるかをみるもの。車でいうところの「燃費」に該当する。
つまるところ、何が言いたいのかというと「一見トレーニングの必要性がなさそうなスポーツだとしても、トレーニングの恩恵を享受することができる」ということです。
そして、巷では「トレーニングで鍛えた筋肉は役に立たない」などと言われていますが、そんなことはない、ということです。
では、一体どんなスポーツでトレーニングの恩恵を享受できるのかというと、
などが挙げられます。
もっとも、ここに記載したものだけ、というわけではありません。
ただ1つ強調するならば、おおよそ「スポーツ」と呼ばれるものであれば、そのほぼ全てにおいてトレーニングの恩恵を享受することができると捉えてもらって問題ないとは思います。
次回に続く。
まとめ
・トレーニングの恩恵は、バレー・サッカー・ゴルフ・バスケット・野球など、様々なスポーツで享受することができる。
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