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【アスリート】競技力向上 実践編② 動作類似エクササイズは効果的か?

前回(【アスリート】競技力向上 実践編① 基本5種)のまとめ

・アスリートにおけるトレーニングは「全身の筋肉を満遍なく強化すること」が原則となる。
・なぜなら、スポーツは「どこか1つの関節だけ」ではなく「様々な関節」を動かす、つまり「どこか1つの筋肉だけ」ではなく「様々な筋肉」を使うため。
・また「全身の筋肉を満遍なく強化すること」によって「傷害発生率を減少させる」という効果も期待できる。
・もっとも「全身の筋肉を満遍なく強化すること」は、あくまでもアスリートおけるトレーニングの「原則」に過ぎず、決して「絶対」ではない。
・全身の筋肉を満遍なく強化するためのエクササイズとして、スクワット・ルーマニアンデッドリフト・ベンチプレス・ラットプルダウン・レッグレイズの5種目を指導している(基本5種)。
・もっとも、これら5種目はあくまでも「基本」に過ぎず「基本5種は絶対に行う」や「基本5種しか行わない」というわけではない。
・「リバースランジ」「ヒップスラスト」「オーバーヘッドプレス」「ベントオーバーロウ」などのエクササイズを取り入れることもある。

前回の記事では、アスリートにおけるトレーニングで実際に取り入れている具体的な種目について書き綴りましたが、これらのエクササイズを指導していると「もっと、そのスポーツっぽいといいますか、その動作に特化したエクササイズを取り入れたりはしないのですか?」との質問を受けることがあります。

ここでの「その動作に特化したエクササイズ」とは「その動作に何かしらの負荷をかけるエクササイズ」を指しており、ゴルフを例に出すと、ケーブルを利用した「ケーブルスイング」バレーを例に出すと、ダンベルを利用した「ダンベルスイング」などが挙げられます。

確かに、私が指導しているエクササイズは「スポーツジムに行けば誰かは行っているであろうよく見かけるエクササイズ」であるため(特にベンチプレスやラットプルダウンなど)このような質問が出ることは当然でしょう。

しかしながら「その動作に何かしらの負荷をかけるエクササイズ」を指導することはまずありません

今回の記事は、なぜこのような主張をするのかについて書き綴りますが、

・スポーツジムに行けば誰かは行っているであろうよく見かけるエクササイズ:一般的エクササイズ
・その動作に何かしらの負荷をかけるエクササイズ:動作類似エクササイズ

と名称し話を進めていきます。

一般的エクササイズを指導し、動作類似エクササイズを指導しない理由

理由その1.一般的エクササイズの方が、動作類似エクササイズよりも競技力向上に繋がると考えられるため

例えば「ボールの飛距離を伸ばしたい」という思いを持ったゴルファーがいたとしましょう。

では、ボールの飛距離を伸ばすにはどうすれば良いのかというと、上半身の筋力を向上させ、スイングスピードを増加させる必要があります。

詳しくは(こちらの英語文献)を見ていただきたいのですが、ボールの飛距離はスイングスピードと、スイングスピードは上半身の筋力と相関することが確認されているためです(※本当は、上半身だけでなく下半身の筋力も重要になるのですが、説明をわかりやすくするため上半身にのみ触れていきます)。

では、上半身のどこの筋力を向上させれば良いのかというと、大胸筋や広背筋になります(※本当は、大胸筋や広背筋だけでなく他部位の筋力も重要になるのですが、説明をわかりやすくするためこれらにのみ触れていきます)。

上の表は、スイング中におけるトレイルアーム(右利きゴルファーの右腕)側の筋活動を表したものですが、このように大胸筋や広背筋は、他の筋肉と比べて活動が大きくなっており「トレイルアーム側の大胸筋・広背筋…は加速局面で大きく活動し、トレイルアームを内転、そして内旋させた。これらは、ダウンスイング中の加速局面において、腕を加速させるのにもっとも重要な筋肉である可能性がある」と考察されています。

The subscapularis, pectoralis major, latissimus dorsi and serratus anterior of the trail arm demonstrated high activity during the acceleration phase to continue adducting and internally rotating the trail arm. These muscles may be the most important ‘power’ muscles of the upper extremity to help accelerate the arm during the acceleration phase of the downswing.

引用:Shoulder muscle recruitment patterns and related biomechanics during upper extremity sports.

では、大胸筋や広背筋の筋力を向上させるには、一体どのようなエクササイズが効果的でしょう?ケーブルスイング(動作類似エクササイズ)でしょうか?それとも、ベンチプレスやラットプルダウン(一般的エクササイズ)でしょうか?

詳しくは(こちらの日本語文献)を見ていただきたいのですが、筋力は筋断面積(≒筋肉量)に比例するとの報告があり、筋力と筋肉量は「可動域を大きく取る(関節を大きく動かす)トレーニング」を行うことでより増加するとのデータが存在します(詳しくはこちらの英語文献を参照)。

これを踏まえた上で、ケーブルスイング及びベンチプレスやラットプルダウンの動きに注目しますが、ケーブルスイングは一見大きな可動域を取っているように見えはするものの、これは身体を捻っているからであり、実際の可動域は大きくありません。つまり、関節(肩)を大きく動かしてはいません。

一方、ベンチプレスやラットプルダウンは可動域を大きく取ることが可能です。下の写真をご覧いただきたいのですが、関節(肩)が大きく動いているのが見て取れます。

そのため、大胸筋や広背筋の筋力を向上させるには、ベンチプレスやラットプルダウンの方が、ケーブルスイングよりも効果的と考察することができます。

ゆえに、ボールの飛距離を伸ばすには、ベンチプレスやラットプルダウンの方が、ケーブルスイングよりも効果的と結論づけることができます。

このような理由から「一般的エクササイズの方が、動作類似エクササイズよりも競技力向上に繋がると考えられる」と先述したわけです。

つまり、

・ボールの飛距離を伸ばしたい→
・ボールの飛距離を伸ばすには、上半身の筋力を向上させ、スイングスピードを増加させる必要がある→
・なぜなら、ボールの飛距離はスイングスピードと、スイングスピードは上半身の筋力と相関することが確認されているため→
・スイング中は、大胸筋や広背筋が大きく活動する→
・よって、ボールの飛距離を伸ばすには、大胸筋や広背筋の筋力を向上させる必要がある→
・筋力は筋断面積(≒筋肉量)に比例するとの報告があり、筋力と筋肉量は「可動域を大きく取る(関節を大きく動かす)トレーニング」を行うことでより増加するとのデータが存在する→
・よって、大胸筋や広背筋の筋力を向上させるには、ベンチプレスやラットプルダウンの方が、ケーブルスイングよりも効果的と考察することができる→
・なぜなら、ベンチプレスやラットプルダウンの方が、ケーブルスイングよりも可動域が大きいため→
・よって、ボールの飛距離を伸ばすには、ベンチプレスやラットプルダウンの方が、ケーブルスイングよりも効果的と結論づけることができる→
・言い換えるならば、ベンチプレスやラットプルダウン(一般的エクササイズ)の方が、ケーブルスイング(動作類似エクササイズ)よりも競技力向上に繋がると考えられる。

ということになります。

ポイント!
・「ボールの飛距離を伸ばしたい→じゃあ、スイング動作に負荷をかけよう!」と短絡的に結んではいけない。
・目的をしっかり把握し:ボールの飛距離を伸ばしたい
・その目的を達成するにはどうすれば良いかを調べ:大胸筋や広背筋の筋力を向上させる(①)
・①を成すために効果的なエクササイズを指導する:ベンチプレスやラットプルダウン

ただ、ここで1つ注意していただきたいことがあるのですが「動作類似エクササイズを行っても、競技力向上に繋がらない」というわけではありません。

これは経験論になるのですが、動作類似エクササイズでも競技力向上に繋がりはします。

しかし「どちらの方が競技力向上に繋がりますか?」と問われるのであれば、それはやはり一般的エクササイズになると考えられます。

理由その2.動作類似エクササイズは、傷害を引き起こすリスクが高い場合があると考えられるため

今度は「スパイクの威力を上げたい」という思いを持ったバレーボーラーがいたとしましょう。そして、スパイクの威力を上げるために、ダンベルスイングを行ったとしましょう。

先に記載した通り、動作類似エクササイズでも競技力向上に繋がりはするため、ダンベルスイングを行えば、スパイクの威力は上がると思われます(それなりに)。しかし、1つ気になることがあります。それが「ハイファイブポジション」です。

ハイファイブポジションは「腕を真横に開き外側にねじった姿勢」なのですが、このポジションが要求されるエクササイズは、様々な肩の傷害に関与することが確認されています(詳しくはこちらの日本語文献を参照)。

つまり「ハイファイブポジションが要求されるエクササイズで、負荷をかけたトレーニングを行うと、肩の傷害を引き起こす(=肩を痛める)リスクが高いですよ」ということです。

これを踏まえた上で、ダンベルスイングの動きに注目しますが、ご覧の通り「肩がハイファイブポジションに置かれる瞬間」があります。

そのため、ダンベルスイングでは「肩の傷害を引き起こすリスクが高い」と考察することができます。

このような理由から「動作類似エクササイズは、傷害を引き起こすリスクが高い場合があると考えられる」と先述したわけです。

まとめ

・一般的エクササイズの方が、動作類似エクササイズよりも競技力向上に繋がると考えられるため
・動作類似エクササイズは、傷害を引き起こすリスクが高い場合があると考えられるため

との理由から、動作類似エクササイズを指導することはまずありません。

また、動作類似エクササイズ以外にも「まず指導することのないエクササイズ」は存在します。「巷で流行りのオシャレな体幹トレーニング」です。それに関しては、以前詳しく書き綴っておりますので(こちら)をご覧ください。

次回に続く。

・ゴルフにおける「ケーブルスイング」バレーにおける「ダンベルスイング」など、動作類似エクササイズを指導することはまずない。
・「お腹を凹ませるドローイン」「バランスボール上でのスクワット」など、巷で流行りのオシャレな体幹トレーニングを指導することもまずない。

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